EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「ま、まほろ?」
 見上げてくる娘は、あきれたように、ベッドに座っていた朝日さんを見やった。
「……あたし、ママの男の趣味だけは、理解できないわ」
「な、何、急に……」
「今日も、ちょっとママが取材で出かけただけで、あからさまにテンション下げるし、帰って来るまで、ずっとソワソワしながら、心配だ、心配だって……ウザいったらない」
「おい、まほろ!オレはな……」
 さすがに言い過ぎだったか、朝日さんが言い返そうとするが、娘は先を越す。
「それに、隙あらば、すぐにイチャイチャするの、困るんだけど」
「「え」」
 その言葉に、二人で固まる。
 ――……ええっと……遠回しに言ってくれてるけど……つまり……

 ……朝日さんと抱き合っているのは、毎回バレてるってコト……⁉

 あたしは、耳まで真っ赤になって、まほろにすがる。
「ま、まほろ。……え、えっと……その、ね……」
「ミツはともかく、あかね(・・・)和泉(いずみ)をごまかすの、大変なんだから!」
「……ご、ごめん……」
 近頃の中学生は、もう、あたしより大人かもしれない……。
 ――今度から、注意しなきゃ。
 そう思ったのに。

「別に良いじゃないか。仲が悪いよりは」

 朝日さんは、あっさりと言ってのける。

「「開き直るな!」」

 思わず、娘と二人、ハモリながら突っ込んでしまった。

「……お前等……」
 朝日さんは、苦りながらベッドから下りて、あたしの元にやって来る。
「まほろ、ママを独り占めできないからって、オレに八つ当たりするな」
「バッ……何言ってっ‼」
「え?」
 そう言うと、キョトンとするあたしを、彼は後ろから抱き寄せた。
「今日は、一緒に買い物に行きたかったんだろう?」
「う、うるさい!」
「え、そうなの?ごめんね」
「違うわよ!ガッコのそばに、新しいケーキ屋さんができたからっ……ママも好きだと思って……」
「そっか、ありがと。今日は、ちょっと時間かかっちゃったものね」
 あたしは、笑いながら娘の頭を撫でる。
 ふてくされながらも、彼女は、首を振った。
「わかってるわよ」
「じゃあ、来週、行く?」
「う「美里、来週はオレとデートだろ」
 すると、耳元で、抱き着いたままの朝日さんが、ムスリと言った。
「……あー……朝日さん、つ、次の週、は?」
「却下。まほろ、オレの方が先約だぞ」
「はあ⁉」
 まほろが言い返そうとするが、すぐに彼は遮るように続ける。
「ママの全てはオレのものだし、オレの全てはママのものだからな。オレの方が優先だ」
「あ、朝日さん?」
 ――また、娘相手に、何を言い出した。
「どういう理屈よ!」
 まほろは大声で、朝日さんに突っ込む。
 いや、同感だけど。夜は止めよう。下の子(した)二人が起きてしまう。
 思わず、娘にも突っ込みたくなった。
 そんなあたしをよそに、二人の言い合いはヒートアップしていく。
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