EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
再び、舞子の部屋に帰ろうと、近間のバス停で降りる。
すると、見計らったように電話がかかってきて、あたしは、ギクリとしながらもスマホをバッグから出した。
相手先の表示は――会社の番号。
――もしかしたら、さっきのアレで、何か言われるんだろうか。
たぶん、野次馬の中には、会社の人間もかなりいたはずだ。
あたしは、クビも覚悟しながら、スマホを耳に当てる。
「――はい」
『白山か』
一瞬でわかってしまう部長の低い声。
耳元で囁かれた時の衝撃がよみがえり、あたしは条件反射のように、肩をすくめる。
『今、どこだ』
「ゆ……友人の家に向かってるところですが……」
『はぁ⁉お前なぁ、さっきの今で、警戒心は無いのか⁉』
あまりにもあきれたような声音で言われ、あたしはムッとして返した。
「警戒心と言われましても。あたしには、もう、帰る場所なんてありませんから」
『――何だ、それは。とにかく、さっきの元カレが待ち伏せてる可能性もあるだろ』
あたしは、眉を寄せる。
寿和とは二年ほど付き合っていたので、舞子の存在は知っているだろうけれど、住んでいる場所なんて言ってないし――。
そうは思ったが、万が一という事もある。
秋成さんがいるから、舞子自身に被害が及ぶ可能性は低いだろうけれど、迷惑をかけない訳ではない。
「――わかりました。また、どこか探します」
『……おい、またネットカフェとかじゃないだろうな?』
不機嫌になっていく部長の声に、あたしの心はすうっと冷めていく。
これ以上、干渉されてたまるか。
「部長には、関係ないですよね」
『――お前なぁ、何度言わせる気だ。部下の心配も部長の仕事だろうが』
「そんな心配、必要ありません」
――あたしに必要なのは――……ただ、あたしを必要としてくれる人だけだ。
頑なに拒否をすると、あたしは通話を強制的に終了する。
そして、舞子に、今日も他で泊まるとメッセージを入れ、徒歩で駅まで向かった。
駅まで来れば、万が一、寿和が現れても、駅前に交番もあるし助けてもらえるだろう。
そんな事を考えながら、あたしは、駅までの道を一時間ほどかけて歩いた。
バス代だって、節約しないと――また、何があるかわからない。
それに、少しくらい運動しておかないと、体力が落ちるばかりだ。
――もう、アラサーと呼ばれる年齢なんだし。
そんな事を考えていると、気が滅入ってくる。
この年齢で、恋人には浮気されて振られ、仕事くらいしかあたしが必要とされる事は無い。
――……それだって、いつまで続くかわからない。
そんなに仕事ができる訳ではない。
ただ、長く会社にいて、与えられた事をするだけで――部長のように、改善しようとか、そんなモチベーションも無い。
――……舞子の言うように、恋人をすべてダメ男にしてしまうのなら、もう、恋愛だってできないかもしれないし。
……舞子のように――ただ、彼氏に大事にされて、必要とされたいだけなのにな……。
……あたしには、そんな恋愛も、もう、夢になるんだろうか……。
不意ににじんできた涙は、無理矢理手でこすった。
幸い、辺りは街灯の明かりくらいしか無いから、すれ違う人が見てくる事も無いだろう。
深呼吸して、沈んでいく心をどうにか浮上させようとするけれど、暗い中を歩いていると、そのまま闇に消えていきそうな錯覚を覚える。
――……このまま、どこかに消えてしまえればいいのに……。
すると、不意にバッグの中が振動し、あたしは、その場で反射的にビクリとしてしまう。
歩道には人の姿は見えないので、そのまま立ち止まってバッグから振動しているスマホを取り出すと、先日の新井さんからの着信だった。
――もしかして、どこか部屋でも見つかった?
思わず、そんな期待をして、通話状態にした。
すると、見計らったように電話がかかってきて、あたしは、ギクリとしながらもスマホをバッグから出した。
相手先の表示は――会社の番号。
――もしかしたら、さっきのアレで、何か言われるんだろうか。
たぶん、野次馬の中には、会社の人間もかなりいたはずだ。
あたしは、クビも覚悟しながら、スマホを耳に当てる。
「――はい」
『白山か』
一瞬でわかってしまう部長の低い声。
耳元で囁かれた時の衝撃がよみがえり、あたしは条件反射のように、肩をすくめる。
『今、どこだ』
「ゆ……友人の家に向かってるところですが……」
『はぁ⁉お前なぁ、さっきの今で、警戒心は無いのか⁉』
あまりにもあきれたような声音で言われ、あたしはムッとして返した。
「警戒心と言われましても。あたしには、もう、帰る場所なんてありませんから」
『――何だ、それは。とにかく、さっきの元カレが待ち伏せてる可能性もあるだろ』
あたしは、眉を寄せる。
寿和とは二年ほど付き合っていたので、舞子の存在は知っているだろうけれど、住んでいる場所なんて言ってないし――。
そうは思ったが、万が一という事もある。
秋成さんがいるから、舞子自身に被害が及ぶ可能性は低いだろうけれど、迷惑をかけない訳ではない。
「――わかりました。また、どこか探します」
『……おい、またネットカフェとかじゃないだろうな?』
不機嫌になっていく部長の声に、あたしの心はすうっと冷めていく。
これ以上、干渉されてたまるか。
「部長には、関係ないですよね」
『――お前なぁ、何度言わせる気だ。部下の心配も部長の仕事だろうが』
「そんな心配、必要ありません」
――あたしに必要なのは――……ただ、あたしを必要としてくれる人だけだ。
頑なに拒否をすると、あたしは通話を強制的に終了する。
そして、舞子に、今日も他で泊まるとメッセージを入れ、徒歩で駅まで向かった。
駅まで来れば、万が一、寿和が現れても、駅前に交番もあるし助けてもらえるだろう。
そんな事を考えながら、あたしは、駅までの道を一時間ほどかけて歩いた。
バス代だって、節約しないと――また、何があるかわからない。
それに、少しくらい運動しておかないと、体力が落ちるばかりだ。
――もう、アラサーと呼ばれる年齢なんだし。
そんな事を考えていると、気が滅入ってくる。
この年齢で、恋人には浮気されて振られ、仕事くらいしかあたしが必要とされる事は無い。
――……それだって、いつまで続くかわからない。
そんなに仕事ができる訳ではない。
ただ、長く会社にいて、与えられた事をするだけで――部長のように、改善しようとか、そんなモチベーションも無い。
――……舞子の言うように、恋人をすべてダメ男にしてしまうのなら、もう、恋愛だってできないかもしれないし。
……舞子のように――ただ、彼氏に大事にされて、必要とされたいだけなのにな……。
……あたしには、そんな恋愛も、もう、夢になるんだろうか……。
不意ににじんできた涙は、無理矢理手でこすった。
幸い、辺りは街灯の明かりくらいしか無いから、すれ違う人が見てくる事も無いだろう。
深呼吸して、沈んでいく心をどうにか浮上させようとするけれど、暗い中を歩いていると、そのまま闇に消えていきそうな錯覚を覚える。
――……このまま、どこかに消えてしまえればいいのに……。
すると、不意にバッグの中が振動し、あたしは、その場で反射的にビクリとしてしまう。
歩道には人の姿は見えないので、そのまま立ち止まってバッグから振動しているスマホを取り出すと、先日の新井さんからの着信だった。
――もしかして、どこか部屋でも見つかった?
思わず、そんな期待をして、通話状態にした。