EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「も、もしもし」
『ああ、白山さんですか!新井不動産です。先日はすみませんでしたね、朝日が失礼してしまいまして』
まるで、保護者のような口ぶりに、あたしは思わず苦笑いだ。
「いえ、それより、どうしたんですか?」
ほんの少しの期待を胸に、そう尋ねると、新井さんは少し砕けた口調に変わり、予想外の事を口にした。
『いや、朝日から電話もらってさ。白山さん、今、どこにいるの?』
「え?」
『アイツ、自分は白山さんに嫌われているから、電話に出てくれないって言ってさ。だから、ボクに電話しろって。で、危険な状況だから、拾って来いと』
「……は?」
あたしは、目を丸くして固まった。
――……嫌われてる……?
何、それ。
だからって、何で新井さんを経由するのよ。
『まあ、アイツも不器用なヤツだから、気に障る事言ったんだろうけど、悪気は無いんで、機嫌直してもらえないかな』
「――……あの、何でそんな事……」
『ああ……あのさ、朝日のヤツ、事情があって、白山さんのような女性、放っておけないんだよね』
「え?」
事情と言われても。
あたしは眉を寄せて、新井さんに返した。
「――でも、それは、あたしには関係ない事ですよね。新井さんまで巻き込んで申し訳ありませんが、放っておいてもらえないでしょうか。――あたしの問題ですから」
すると、スマホの向こうで、新井さんが納得したように、そうだね、とうなづく。
『まあ、そうは言っても、何かの縁だし。ひとまず、朝日と話し合ってもらえないかな?』
「――話し合うって、何をですか」
何だか、話題が平行線だ。
この人、何が言いたいんだろう。
あたしは、眉間にしわができるかと思うほどに寄せる。
『ああ、そこからか。まったく、アイツも、何でもできる割には、そういうトコ抜けてるんだからなぁ』
一人納得しながら、新井さんはあたしに言った。
『とにかく、今、どこかな?迎えに行くからさ』
「で、でも」
『今なら、ウチの部屋情報検索システム、使い放題』
「――う・」
その条件に、思わず傾いてしまう。
今のあたしには、それは一番必要なもの。
「わ……わかりました」
渋々ながらうなづくと、ちょうど、国道近くを車で走っていたそうで、現在地を伝えると、十分もしないで、新井さんは社用車であたしを拾いにやってきたのだった。
そして、やってきたのは、先日の新井不動産。
もう、営業自体は終了していたので、裏口から回って中に入る。
「ちょっと、座って待っててね」
新井さんが、電気をつけると、一瞬、そのまぶしさに目をつむってしまった。
来客用のソファに沈むように座るが、どうぞ、と、出されたお茶に、姿勢を正す。
一口、口に含めば、緑茶の苦みに、ほんの少し心が落ち着いた。
店内を見渡せば、カウンターにパソコンが置かれ、その向こうには、かなりの量のファイルが棚に並んでいた。
年季の入ったその背表紙に、ここが、長年続いている会社なのだとわかる。
今は、パソコンで見られるのだろうけれど、これだけの情報があるのだから、きっと、大手の不動産では扱っていない物件もあるんじゃないだろうか。
そんな事を思っていると、不意に裏口が勢いよく開けられた。
「――白山、無事、だったか」
「……黒川部長」
少しだけ息を切らした部長が、新井さんよりも先に入って来て、あたしは思わず持っていた湯呑を落としそうになった。
すると、部長は大きく息を吐くと、あたしを見やる。
そして――
「お前、もう、あのマンションに住め」
また、とんでもないコトを言ってくれたのだった。
『ああ、白山さんですか!新井不動産です。先日はすみませんでしたね、朝日が失礼してしまいまして』
まるで、保護者のような口ぶりに、あたしは思わず苦笑いだ。
「いえ、それより、どうしたんですか?」
ほんの少しの期待を胸に、そう尋ねると、新井さんは少し砕けた口調に変わり、予想外の事を口にした。
『いや、朝日から電話もらってさ。白山さん、今、どこにいるの?』
「え?」
『アイツ、自分は白山さんに嫌われているから、電話に出てくれないって言ってさ。だから、ボクに電話しろって。で、危険な状況だから、拾って来いと』
「……は?」
あたしは、目を丸くして固まった。
――……嫌われてる……?
何、それ。
だからって、何で新井さんを経由するのよ。
『まあ、アイツも不器用なヤツだから、気に障る事言ったんだろうけど、悪気は無いんで、機嫌直してもらえないかな』
「――……あの、何でそんな事……」
『ああ……あのさ、朝日のヤツ、事情があって、白山さんのような女性、放っておけないんだよね』
「え?」
事情と言われても。
あたしは眉を寄せて、新井さんに返した。
「――でも、それは、あたしには関係ない事ですよね。新井さんまで巻き込んで申し訳ありませんが、放っておいてもらえないでしょうか。――あたしの問題ですから」
すると、スマホの向こうで、新井さんが納得したように、そうだね、とうなづく。
『まあ、そうは言っても、何かの縁だし。ひとまず、朝日と話し合ってもらえないかな?』
「――話し合うって、何をですか」
何だか、話題が平行線だ。
この人、何が言いたいんだろう。
あたしは、眉間にしわができるかと思うほどに寄せる。
『ああ、そこからか。まったく、アイツも、何でもできる割には、そういうトコ抜けてるんだからなぁ』
一人納得しながら、新井さんはあたしに言った。
『とにかく、今、どこかな?迎えに行くからさ』
「で、でも」
『今なら、ウチの部屋情報検索システム、使い放題』
「――う・」
その条件に、思わず傾いてしまう。
今のあたしには、それは一番必要なもの。
「わ……わかりました」
渋々ながらうなづくと、ちょうど、国道近くを車で走っていたそうで、現在地を伝えると、十分もしないで、新井さんは社用車であたしを拾いにやってきたのだった。
そして、やってきたのは、先日の新井不動産。
もう、営業自体は終了していたので、裏口から回って中に入る。
「ちょっと、座って待っててね」
新井さんが、電気をつけると、一瞬、そのまぶしさに目をつむってしまった。
来客用のソファに沈むように座るが、どうぞ、と、出されたお茶に、姿勢を正す。
一口、口に含めば、緑茶の苦みに、ほんの少し心が落ち着いた。
店内を見渡せば、カウンターにパソコンが置かれ、その向こうには、かなりの量のファイルが棚に並んでいた。
年季の入ったその背表紙に、ここが、長年続いている会社なのだとわかる。
今は、パソコンで見られるのだろうけれど、これだけの情報があるのだから、きっと、大手の不動産では扱っていない物件もあるんじゃないだろうか。
そんな事を思っていると、不意に裏口が勢いよく開けられた。
「――白山、無事、だったか」
「……黒川部長」
少しだけ息を切らした部長が、新井さんよりも先に入って来て、あたしは思わず持っていた湯呑を落としそうになった。
すると、部長は大きく息を吐くと、あたしを見やる。
そして――
「お前、もう、あのマンションに住め」
また、とんでもないコトを言ってくれたのだった。