EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――以上、何か、質問は」
まるで、仕事の説明を受けた後のように疲弊してしまったあたしは、ゆるゆると首を振った。
「……すみませんが……ちょっと、キャパオーバーです」
「あ、ああ、すまない。急ぎ過ぎたか」
あたしは、大きく息を吐き、部屋の中を見回す。
モデルルームができそうなほど、シックな空間に、今までの自分の部屋を思い出し、心の中でやさぐれた。
――まるで、別世界。
ワンルームで同棲していた頃とは大違い。
「じゃあ、荷物はまた後日で良いんだな」
「あ、ハイ。――舞子は、サービス業なんで、今、たぶん帰ってる途中だと思います」
時間は八時半近く。
確か、店は平日は七時閉店だけど、その後の作業もある。
さらに言えば、舞子の店は、部屋からバスで四十分の郊外にあるのだ。
なので、最終のバスを逃してしまうと、大変なコトになる。
「まあ、追々考えるか。ひとまず、白山、今日はオレのベッド使え」
「え⁉」
あたしは、ギョッとして部長を見上げる。
すると、あっさりと返された。
「オレも最近越してきたばかりだ。必要最低限しか揃っていないから、客用布団など無い」
「いえっ!あたしは、床で寝ますから!」
「何言ってんだ、お前は。させる訳がないだろうが」
「じゃあ、部長はどこで寝るんですか⁉」
「リビングのソファ。ベッドにもなる」
「なら、あたしがそっち使います!」
意地でも譲ってたまるか。
お試し交際初日に、彼氏(仮)のベッドに寝るのは、さすがにできない!
あたしは、荷物をソファに投げるように置くと、そのままそこに座り込んだ。
「……おい、白山」
「今日一日くらい、平気ですから!」
部長は、あたしを見下ろすと、はあ、と、大きく息を吐いた。
「……最初会った時から思っていたが……お前、かなりの意地っ張りだな」
「う、うるさい!放っておいてよ!」
思わずタメ口になってしまい、すぐに左手で口を押さえる。
だが、部長は、あたしの隣に座ると、その手を取った。
「――構わん。プライベートだ。――オレも、美里、で通すからな」
「――っ……‼‼」
真っ直ぐに見つめられ、言葉を失い、硬直する。
――だから、アンタは、そのカオの破壊力を自覚しろ!
「――さてと、じゃあ、ちょっと遅いが、夕飯でも作るか」
あたしの動揺をあっさりと無視し、部長は立ち上がった。
キッチンに向かうのを見やり、あたしは慌てて追いかける。
「何だ」
「あ、あたしが作ります!……一応、置いてもらってるんで……」
「必要ない」
「でも」
「――オレは、家政婦を家に置いたつもりは無い」
その言葉に、目を丸くする。
――何よ、偉そうに……。
でも、だからって引き下がれるか。
何もかも、世話になる訳にはいかないんだから。
「家政婦じゃなくて――一応、恋人設定です。だから、作ってあげるのは当然じゃないですか」
すると、部長は、あたしを見やり苦笑いを浮かべた。
「……お前には当然なんだな」
「……ど、どういう意味よ」
「世の”普通”に縛られているクチか」
そう言いながら、部長は、ジャケットを脱いで、ソファに放り投げると、そのままシャツの袖をまくり上げる。
急に現れた筋肉質な腕に、思わず動揺。
その隙に、部長は、冷蔵庫を開けて、さっさと野菜を取り出し始めた。
「あ、あたしが……」
「――構わんと言っている。大体、勝手も分らんだろうが」
「……そ、それは、カンで……」
意地でも譲らないあたしに、部長は、手に持っていたジャガイモを押し付けるように渡してきた。
「え」
「――ジャガイモメイン。時間もそんなにかけたくない。――何が作れる?」
その挑戦的な視線に、あたしは、一瞬たじろぐが、キッと、見返した。
「肉じゃがが一番早いです」
「――了解。じゃあ、任せる」
「あ、ハ、ハイ!」
あたしが、差し出された大小五個ほどのジャガイモを受け取ると、すぐにピーラーを手渡された。
人参、玉ねぎは既にスタンバイされている。
「豚肉――は、ひき肉しか無いが」
「構いません」
ていうか、今さらながら――この人、自炊するのか。
ジャガイモの皮を剥き終え、水にひたしている間に、人参の皮もついでに剥く。
「皮、使います?」
「使えるのか」
「まあ、きんぴらとかですけど」
同棲していた時の、節約メニューになってしまうが、もったいないのは変わりない。
「じゃあ、明日、ゴボウ買ってくるか」
「いえ、このまま使っちゃいます。何かと一緒にしなきゃいけない訳じゃないですから」
これなら、一品増えるし。
「――……主婦の知恵」
ポツリと隣から聞こえたつぶやきに、一瞬で胸の奥が抉られる感覚。
反射で、手は止まってしまった。
まるで、仕事の説明を受けた後のように疲弊してしまったあたしは、ゆるゆると首を振った。
「……すみませんが……ちょっと、キャパオーバーです」
「あ、ああ、すまない。急ぎ過ぎたか」
あたしは、大きく息を吐き、部屋の中を見回す。
モデルルームができそうなほど、シックな空間に、今までの自分の部屋を思い出し、心の中でやさぐれた。
――まるで、別世界。
ワンルームで同棲していた頃とは大違い。
「じゃあ、荷物はまた後日で良いんだな」
「あ、ハイ。――舞子は、サービス業なんで、今、たぶん帰ってる途中だと思います」
時間は八時半近く。
確か、店は平日は七時閉店だけど、その後の作業もある。
さらに言えば、舞子の店は、部屋からバスで四十分の郊外にあるのだ。
なので、最終のバスを逃してしまうと、大変なコトになる。
「まあ、追々考えるか。ひとまず、白山、今日はオレのベッド使え」
「え⁉」
あたしは、ギョッとして部長を見上げる。
すると、あっさりと返された。
「オレも最近越してきたばかりだ。必要最低限しか揃っていないから、客用布団など無い」
「いえっ!あたしは、床で寝ますから!」
「何言ってんだ、お前は。させる訳がないだろうが」
「じゃあ、部長はどこで寝るんですか⁉」
「リビングのソファ。ベッドにもなる」
「なら、あたしがそっち使います!」
意地でも譲ってたまるか。
お試し交際初日に、彼氏(仮)のベッドに寝るのは、さすがにできない!
あたしは、荷物をソファに投げるように置くと、そのままそこに座り込んだ。
「……おい、白山」
「今日一日くらい、平気ですから!」
部長は、あたしを見下ろすと、はあ、と、大きく息を吐いた。
「……最初会った時から思っていたが……お前、かなりの意地っ張りだな」
「う、うるさい!放っておいてよ!」
思わずタメ口になってしまい、すぐに左手で口を押さえる。
だが、部長は、あたしの隣に座ると、その手を取った。
「――構わん。プライベートだ。――オレも、美里、で通すからな」
「――っ……‼‼」
真っ直ぐに見つめられ、言葉を失い、硬直する。
――だから、アンタは、そのカオの破壊力を自覚しろ!
「――さてと、じゃあ、ちょっと遅いが、夕飯でも作るか」
あたしの動揺をあっさりと無視し、部長は立ち上がった。
キッチンに向かうのを見やり、あたしは慌てて追いかける。
「何だ」
「あ、あたしが作ります!……一応、置いてもらってるんで……」
「必要ない」
「でも」
「――オレは、家政婦を家に置いたつもりは無い」
その言葉に、目を丸くする。
――何よ、偉そうに……。
でも、だからって引き下がれるか。
何もかも、世話になる訳にはいかないんだから。
「家政婦じゃなくて――一応、恋人設定です。だから、作ってあげるのは当然じゃないですか」
すると、部長は、あたしを見やり苦笑いを浮かべた。
「……お前には当然なんだな」
「……ど、どういう意味よ」
「世の”普通”に縛られているクチか」
そう言いながら、部長は、ジャケットを脱いで、ソファに放り投げると、そのままシャツの袖をまくり上げる。
急に現れた筋肉質な腕に、思わず動揺。
その隙に、部長は、冷蔵庫を開けて、さっさと野菜を取り出し始めた。
「あ、あたしが……」
「――構わんと言っている。大体、勝手も分らんだろうが」
「……そ、それは、カンで……」
意地でも譲らないあたしに、部長は、手に持っていたジャガイモを押し付けるように渡してきた。
「え」
「――ジャガイモメイン。時間もそんなにかけたくない。――何が作れる?」
その挑戦的な視線に、あたしは、一瞬たじろぐが、キッと、見返した。
「肉じゃがが一番早いです」
「――了解。じゃあ、任せる」
「あ、ハ、ハイ!」
あたしが、差し出された大小五個ほどのジャガイモを受け取ると、すぐにピーラーを手渡された。
人参、玉ねぎは既にスタンバイされている。
「豚肉――は、ひき肉しか無いが」
「構いません」
ていうか、今さらながら――この人、自炊するのか。
ジャガイモの皮を剥き終え、水にひたしている間に、人参の皮もついでに剥く。
「皮、使います?」
「使えるのか」
「まあ、きんぴらとかですけど」
同棲していた時の、節約メニューになってしまうが、もったいないのは変わりない。
「じゃあ、明日、ゴボウ買ってくるか」
「いえ、このまま使っちゃいます。何かと一緒にしなきゃいけない訳じゃないですから」
これなら、一品増えるし。
「――……主婦の知恵」
ポツリと隣から聞こえたつぶやきに、一瞬で胸の奥が抉られる感覚。
反射で、手は止まってしまった。