EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「美里」
「え」
すると、低い声で呼ばれ、顔を上げる。
目が合った部長は、困ったように微笑んだ。
「――ホラ、さっさと食べるぞ」
「――……ハ、ハイ」
二人で手を合わせて、目の前の食事に箸をつける。
あたしは、そおっと、部長の反応をうかがう。
――だ、大丈夫、かな。
すぐに目が合い、クスリ、と、微笑んで返される。
「何をビクついている」
「え、あ、えっと……お、お口に合うか、と……」
「上等に美味い」
「え」
「さすが、というべきか。年季が違うな」
「――え」
思わぬ言葉に、あたしは固まった。
「――お前が、これまで失くしたものは大きかっただろうが――こうやって、残るものもある。……すべてを無駄だと決めつけるな」
その言葉に、一瞬、頭は真っ白。
けれど、次には――涙がこぼれていく。
「お、おい、美里」
「す、すみ、ません。……何か……」
そんな風に言われるなんて、思ってもみなかった。
あたしは、泣き顔を見られたくなくて、うつむいた。
すると、箸を持っていた手が、伸ばされた部長の手に包み込まれる。
顔を上げて見やれば、困ったように微笑まれた。
「――タメ口で良いって言っただろ」
「……でも……」
「――まあ、良い。徐々に慣れろ。……冷めないうちに食べるぞ」
あたしは、無言でうなづく。
当然のように言われた言葉は、胸に響いた。
――……この人は――……きっと、素でこうなんだ……。
優しくするのも、厳しくするのも――相手を思ったからで。
――……あたしの心臓は、いつもの数倍、早く鳴り出す。
ヤバい。ヤバい。
ダメだ。
――本当に好きになりそうだ。
別れたばかりで弱っている時に――この優しさはダメだ。
二人目の時の事を思い出すと、あたしは、軽く首を振る。
――それで、自分の気持ちが揺らぐのをつなぎとめるように。
遅くなった食事を終え、片付けも二人で済ませる。
そして、あたしは、自分に割り当てられた部屋に入ると、持って来たバッグから、中身を取り出した。
残りは、コインロッカーに預けたスーツケースと、舞子の部屋に置きっぱなしのいろいろ。
……そう言えば……舞子に、どう説明しよう……。
ひとまず、今日は他に泊まるところが見つかったと、メッセージを入れた。
すると、すぐに着信。
「……も、もしもし……」
『ちょっと、美里。アンタ、今、ドコよ⁉』
「え、だ、だから……他に泊まるところが……」
『あるの、アンタに⁉』
メッセージをそのまま伝えようとしたら、ぶった切られる。
言い方はアレだが、舞子にとっては、これは普通の口調。
だが、さすがに肩をすくめてしまった。
「――……えっと……ちょっと事情が複雑すぎて……明日、荷物取りに行くから、その時に説明するわ」
『……本当に、大丈夫なトコなの?アンタ、また、ヘンな男につかまってない?』
一瞬、ギクリとするが、首を振った。
「……その辺は、大丈夫」
今のところは、ダメ男の片鱗も見当たらないのだから。
『……まあ、良いわ。でも、怪しいと思ったら、すぐに回収に行くからね』
「回収って……」
まあ、舞子なりに心配してくれているのだから、文句はやめておく。
貴重な――ただ一人の、親友なんだし。
渋々といった感じだが、舞子が了承してくれたので、あたしは通話を終えると、ほう、と、息を吐いた。
すると、不意に部屋のドアがノックされた。
「え」
すると、低い声で呼ばれ、顔を上げる。
目が合った部長は、困ったように微笑んだ。
「――ホラ、さっさと食べるぞ」
「――……ハ、ハイ」
二人で手を合わせて、目の前の食事に箸をつける。
あたしは、そおっと、部長の反応をうかがう。
――だ、大丈夫、かな。
すぐに目が合い、クスリ、と、微笑んで返される。
「何をビクついている」
「え、あ、えっと……お、お口に合うか、と……」
「上等に美味い」
「え」
「さすが、というべきか。年季が違うな」
「――え」
思わぬ言葉に、あたしは固まった。
「――お前が、これまで失くしたものは大きかっただろうが――こうやって、残るものもある。……すべてを無駄だと決めつけるな」
その言葉に、一瞬、頭は真っ白。
けれど、次には――涙がこぼれていく。
「お、おい、美里」
「す、すみ、ません。……何か……」
そんな風に言われるなんて、思ってもみなかった。
あたしは、泣き顔を見られたくなくて、うつむいた。
すると、箸を持っていた手が、伸ばされた部長の手に包み込まれる。
顔を上げて見やれば、困ったように微笑まれた。
「――タメ口で良いって言っただろ」
「……でも……」
「――まあ、良い。徐々に慣れろ。……冷めないうちに食べるぞ」
あたしは、無言でうなづく。
当然のように言われた言葉は、胸に響いた。
――……この人は――……きっと、素でこうなんだ……。
優しくするのも、厳しくするのも――相手を思ったからで。
――……あたしの心臓は、いつもの数倍、早く鳴り出す。
ヤバい。ヤバい。
ダメだ。
――本当に好きになりそうだ。
別れたばかりで弱っている時に――この優しさはダメだ。
二人目の時の事を思い出すと、あたしは、軽く首を振る。
――それで、自分の気持ちが揺らぐのをつなぎとめるように。
遅くなった食事を終え、片付けも二人で済ませる。
そして、あたしは、自分に割り当てられた部屋に入ると、持って来たバッグから、中身を取り出した。
残りは、コインロッカーに預けたスーツケースと、舞子の部屋に置きっぱなしのいろいろ。
……そう言えば……舞子に、どう説明しよう……。
ひとまず、今日は他に泊まるところが見つかったと、メッセージを入れた。
すると、すぐに着信。
「……も、もしもし……」
『ちょっと、美里。アンタ、今、ドコよ⁉』
「え、だ、だから……他に泊まるところが……」
『あるの、アンタに⁉』
メッセージをそのまま伝えようとしたら、ぶった切られる。
言い方はアレだが、舞子にとっては、これは普通の口調。
だが、さすがに肩をすくめてしまった。
「――……えっと……ちょっと事情が複雑すぎて……明日、荷物取りに行くから、その時に説明するわ」
『……本当に、大丈夫なトコなの?アンタ、また、ヘンな男につかまってない?』
一瞬、ギクリとするが、首を振った。
「……その辺は、大丈夫」
今のところは、ダメ男の片鱗も見当たらないのだから。
『……まあ、良いわ。でも、怪しいと思ったら、すぐに回収に行くからね』
「回収って……」
まあ、舞子なりに心配してくれているのだから、文句はやめておく。
貴重な――ただ一人の、親友なんだし。
渋々といった感じだが、舞子が了承してくれたので、あたしは通話を終えると、ほう、と、息を吐いた。
すると、不意に部屋のドアがノックされた。