EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
あたしは、スマホを持ったまま、部屋のドアを開けた。
「……はい?」
「ああ、電話だったか」
「え?」
「いや、何か話し声がしていたから。――それより、先に風呂入れ」
「――え」
思わず固まってしまうが、共用すると言ったばかりだ。
だが――それ以前の問題に気がついてしまう。
「あ、あの、あたし……後で……」
「別に遠慮するな」
「いえ、あの、き、急な話で……着替えを、持って来ていないので……」
うつむきながら、小声で伝えると、部長は一瞬固まる。
「――あ、ああ、そう言えばそうだったな。だが、今の時間、店などやってないだろう」
「いえ、コインロッカーに預けてあるスーツケースに、ひと通り入れているので、取りに行きます」
あたしは、そう言って、床に置いておいたバッグを持つと、足早に部長の脇を通り過ぎて、玄関へ向かう。
「お、おい、美里」
慌てて追いかけてくる部長を、あたしは振り返った。
「――何ですか」
「こんな時間に外をウロウロするな」
その言葉に、眉をしかめる。
アンタは、あたしの父親か。
「――子供じゃないんです。ちゃんと、行って帰って来られますから」
「子供じゃないんだから、心配なんだろうが。また、変な輩に絡まれたらどうするんだ」
「コインロッカーは、そこの駅です。すぐに帰って来ますので」
いちいち癇に障るような言い方に、あたしは意地になって靴を履く。
すると、同じように部長が隣で靴を履いた。
「……何ですか」
「オレも行く」
「大丈夫です」
「そんな保証はどこにも無い」
「大丈夫だって、言ってるでしょ!」
キッと、部長をにらむように見上げる。
部長は、ムッとしながら、あたしの頭を軽くたたいた。
「――オレが、心配だから、ついて行くんだ」
「……っ……」
表情とは裏腹の甘い言葉に、反応が遅れる。
結局、根負けしてしまい、夜更けに二人で駅のコインロッカーまで歩き出した。
「……美里……お前、一体、何入れたら、こんなに重いスーツケースが出来上がるんだ……」
二人で無言のまま駅に向かい、あっさりとスーツケースを引き上げ歩き出そうとしたら、部長が、当然のようにそれを奪い取り――そして、言われた。
あたしは、ムッとしながら、奪い返そうとするが、その手は部長の左手に掴まれ、スーツケースは反対側へ持って行かれてしまう。
「ぶっ……ぶちょ……」
「美里」
「――……あ、あさ、ひ、さん……」
「何だ」
「スーツケース……返してください」
「こういうのは、男の役目だろうが」
当然のように言われ、あたしは眉を寄せる。
「……オジサン……」
思わずこぼれた一言に、部長は足を止めた。
――あ、コレ、禁句?
「……ほう……美里にとっては、三十五歳はオジサンの部類か」
「――あ、いえ、そういう……訳じゃ……」
妙な空気になってしまい、あたしは、視線を逸らす。
「そ、その……意外と、考え方が古い気がしたので……」
すると、部長は歩みは止めず、黙り込んだ。
――やっぱり、何か気に障った?
あたしが、恐る恐る見上げると、部長と視線が合った。
そして――ふい、と、拗ねたように逸らされる。
――……え?
「……悪かったな、古臭くて」
「え、あの……もしかして、拗ねてます……?」
あたしの問いかけに、部長は眉を寄せて、あたしを見下ろす。
そして、
「拗ねてる訳じゃないっ」
――そう、拗ねたように言ったのだった。
「……はい?」
「ああ、電話だったか」
「え?」
「いや、何か話し声がしていたから。――それより、先に風呂入れ」
「――え」
思わず固まってしまうが、共用すると言ったばかりだ。
だが――それ以前の問題に気がついてしまう。
「あ、あの、あたし……後で……」
「別に遠慮するな」
「いえ、あの、き、急な話で……着替えを、持って来ていないので……」
うつむきながら、小声で伝えると、部長は一瞬固まる。
「――あ、ああ、そう言えばそうだったな。だが、今の時間、店などやってないだろう」
「いえ、コインロッカーに預けてあるスーツケースに、ひと通り入れているので、取りに行きます」
あたしは、そう言って、床に置いておいたバッグを持つと、足早に部長の脇を通り過ぎて、玄関へ向かう。
「お、おい、美里」
慌てて追いかけてくる部長を、あたしは振り返った。
「――何ですか」
「こんな時間に外をウロウロするな」
その言葉に、眉をしかめる。
アンタは、あたしの父親か。
「――子供じゃないんです。ちゃんと、行って帰って来られますから」
「子供じゃないんだから、心配なんだろうが。また、変な輩に絡まれたらどうするんだ」
「コインロッカーは、そこの駅です。すぐに帰って来ますので」
いちいち癇に障るような言い方に、あたしは意地になって靴を履く。
すると、同じように部長が隣で靴を履いた。
「……何ですか」
「オレも行く」
「大丈夫です」
「そんな保証はどこにも無い」
「大丈夫だって、言ってるでしょ!」
キッと、部長をにらむように見上げる。
部長は、ムッとしながら、あたしの頭を軽くたたいた。
「――オレが、心配だから、ついて行くんだ」
「……っ……」
表情とは裏腹の甘い言葉に、反応が遅れる。
結局、根負けしてしまい、夜更けに二人で駅のコインロッカーまで歩き出した。
「……美里……お前、一体、何入れたら、こんなに重いスーツケースが出来上がるんだ……」
二人で無言のまま駅に向かい、あっさりとスーツケースを引き上げ歩き出そうとしたら、部長が、当然のようにそれを奪い取り――そして、言われた。
あたしは、ムッとしながら、奪い返そうとするが、その手は部長の左手に掴まれ、スーツケースは反対側へ持って行かれてしまう。
「ぶっ……ぶちょ……」
「美里」
「――……あ、あさ、ひ、さん……」
「何だ」
「スーツケース……返してください」
「こういうのは、男の役目だろうが」
当然のように言われ、あたしは眉を寄せる。
「……オジサン……」
思わずこぼれた一言に、部長は足を止めた。
――あ、コレ、禁句?
「……ほう……美里にとっては、三十五歳はオジサンの部類か」
「――あ、いえ、そういう……訳じゃ……」
妙な空気になってしまい、あたしは、視線を逸らす。
「そ、その……意外と、考え方が古い気がしたので……」
すると、部長は歩みは止めず、黙り込んだ。
――やっぱり、何か気に障った?
あたしが、恐る恐る見上げると、部長と視線が合った。
そして――ふい、と、拗ねたように逸らされる。
――……え?
「……悪かったな、古臭くて」
「え、あの……もしかして、拗ねてます……?」
あたしの問いかけに、部長は眉を寄せて、あたしを見下ろす。
そして、
「拗ねてる訳じゃないっ」
――そう、拗ねたように言ったのだった。