EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
fight.10
ピンポン、と、ベルが鳴り、あたしは思わず肩をすくめる。
――ああ、何だか、顔合わせるの気まずいな……。
部長に黙って来たのは、一応、忙しいだろうからと思ってなのだけれど、心配させてしまったのなら謝らないと。
あたしが、そんな事を思いながら立ち上がろうとすると、大きな手が目の前に出現し、顔を上げた。
「秋成さん?」
「一応、おれが確認してからね」
「え、で、でも大丈夫だと……」
「美里、いいから。万が一ってのもあるからさ」
舞子がそう言ったので、あたしは、うなづいて座り直した。
その間に、もう一度、チャイムが鳴り響く。
玄関に向かった秋成さんの後ろ姿を、あたしは、少しだけ緊張して見やる。
――寿和は、この場所は知らないはず。
でも、万が一……あたしの知らないところで、突き止めていたら。
そう思うと、背筋に冷たいものが伝う。
「はいはい、どなた?」
営業用の柔らかい口調で、秋成さんがドアスコープから相手を確認して、鍵を開けた。
「――夜分失礼します。白山美里を迎えに来ました」
その聞き覚えのある低い声に、反射的にビクリとする。
そんなあたしを見やると、秋成さんは尋ねてきた。
「美里ちゃん、知ってる人?」
あたしは、恐る恐る、横に避けた秋成さんの向こう側に目を向ける。
そこには、不機嫌そうにあたしを見やる、部長の姿。
「――……ぶ、部長……」
「「え?」」
思わずこぼした言葉に、二人がキョトンとする。
「え、あ、えっと……会社の上司……です……」
ゴニョゴニョと口にすると、舞子はジロリとあたしを見た。
「……ちょっと、美里、どういうコトになってんのよ、アンタ」
一瞬にして、気圧が降下している舞子を、あたしは気まずそうに見返す。
「……えっと……まあ、いろいろあって……お世話になってるっていうか……」
「美里、ハッキリと、付き合ってると言えばいいだろうが」
説明途中に、バッサリと切り込んできた部長は、そのまま、失礼する、と、言いながら、部屋に入ってきた。
「……ちょっと、意味わかんないんですけど」
その言動が癇に障ったのか、舞子は眉を寄せて立ち上がると、部長を見上げる。
「美里は、ついこの前、別れたばかりなんですが。――大体、お世話になってるって、どういう事よ」
後半部分は、あたしを見下ろし、舞子は言う。
「……えっと……」
この場合、一緒に住んでいると言っても良いのだろうか。
あたしは、部長をチラリと見上げると、しかめ面で返される。
そして、舞子を見やると、あっさりと言った。
「――先日から同棲しているが。だが、それは、君の許可が必要なものなのか?」
「は?」
――舞子に、その返しはマズイ!
あたしは、慌てて立ち上がると、二人の間に入ろうとする。
舞子は、その可愛らしい見た目とは違い、かなりの負けず嫌い。
昔から舐められるような事が何回もあったから、仕方ない部分はあるけれど、初対面の人間にだって食ってかかるのは、一度や二度じゃない。
「あのっ……ぶっ……部長!」
「お前も、いい加減名前呼びに慣れろ」
ピシャリと言い切られ、あたしは口をつぐむ。
舞子と部長――二人からの視線に、どう返せばいいのか悩んでいると、助け舟が入った。
「はいはい。今日は、もう遅いんで、お引き取りいただけますか」
「――秋成さん」
あたしは、玄関で様子をうかがっていた彼を見やる。
「ちょっと、アキ。これは、アタシが売られたケンカよ」
「こらこら、舞子、勝手にケンカにするんじゃないよ」
「――喧嘩を売った覚えは無いが」
――ダメだ。これ以上はカオスになる。
「か、帰ります!あ……朝日さんっ!」
あたしは、足元に置いていたバッグ三つを抱え、更に仕事用のショルダーバッグを斜め掛けして玄関に向かう。
「ちょっと、美里!」
「ごめん、舞子!ちょっと、冷静になってから説明するから!」
「アンタね……!」
「とにかく!この人、今のところは大丈夫だし!秋成さん、舞子の事お願いします!」
あたしは、そう告げると、秋成さんに頭を下げて部屋を出る。
「おい、美里!お前は、何でそう大荷物なんだ!」
部長は、あたしの後を慌てたように追いかけてきて、そう言いながら、バッグを二つ奪い取る。
そして、苦々しく言われた。
「――……本気で、お前の収納能力に感心するぞ……」
あたしにとっては、いつもの重み。
けれど、部長にとって想定外のようで、思い切り眉を寄せられたのだった。
――ああ、何だか、顔合わせるの気まずいな……。
部長に黙って来たのは、一応、忙しいだろうからと思ってなのだけれど、心配させてしまったのなら謝らないと。
あたしが、そんな事を思いながら立ち上がろうとすると、大きな手が目の前に出現し、顔を上げた。
「秋成さん?」
「一応、おれが確認してからね」
「え、で、でも大丈夫だと……」
「美里、いいから。万が一ってのもあるからさ」
舞子がそう言ったので、あたしは、うなづいて座り直した。
その間に、もう一度、チャイムが鳴り響く。
玄関に向かった秋成さんの後ろ姿を、あたしは、少しだけ緊張して見やる。
――寿和は、この場所は知らないはず。
でも、万が一……あたしの知らないところで、突き止めていたら。
そう思うと、背筋に冷たいものが伝う。
「はいはい、どなた?」
営業用の柔らかい口調で、秋成さんがドアスコープから相手を確認して、鍵を開けた。
「――夜分失礼します。白山美里を迎えに来ました」
その聞き覚えのある低い声に、反射的にビクリとする。
そんなあたしを見やると、秋成さんは尋ねてきた。
「美里ちゃん、知ってる人?」
あたしは、恐る恐る、横に避けた秋成さんの向こう側に目を向ける。
そこには、不機嫌そうにあたしを見やる、部長の姿。
「――……ぶ、部長……」
「「え?」」
思わずこぼした言葉に、二人がキョトンとする。
「え、あ、えっと……会社の上司……です……」
ゴニョゴニョと口にすると、舞子はジロリとあたしを見た。
「……ちょっと、美里、どういうコトになってんのよ、アンタ」
一瞬にして、気圧が降下している舞子を、あたしは気まずそうに見返す。
「……えっと……まあ、いろいろあって……お世話になってるっていうか……」
「美里、ハッキリと、付き合ってると言えばいいだろうが」
説明途中に、バッサリと切り込んできた部長は、そのまま、失礼する、と、言いながら、部屋に入ってきた。
「……ちょっと、意味わかんないんですけど」
その言動が癇に障ったのか、舞子は眉を寄せて立ち上がると、部長を見上げる。
「美里は、ついこの前、別れたばかりなんですが。――大体、お世話になってるって、どういう事よ」
後半部分は、あたしを見下ろし、舞子は言う。
「……えっと……」
この場合、一緒に住んでいると言っても良いのだろうか。
あたしは、部長をチラリと見上げると、しかめ面で返される。
そして、舞子を見やると、あっさりと言った。
「――先日から同棲しているが。だが、それは、君の許可が必要なものなのか?」
「は?」
――舞子に、その返しはマズイ!
あたしは、慌てて立ち上がると、二人の間に入ろうとする。
舞子は、その可愛らしい見た目とは違い、かなりの負けず嫌い。
昔から舐められるような事が何回もあったから、仕方ない部分はあるけれど、初対面の人間にだって食ってかかるのは、一度や二度じゃない。
「あのっ……ぶっ……部長!」
「お前も、いい加減名前呼びに慣れろ」
ピシャリと言い切られ、あたしは口をつぐむ。
舞子と部長――二人からの視線に、どう返せばいいのか悩んでいると、助け舟が入った。
「はいはい。今日は、もう遅いんで、お引き取りいただけますか」
「――秋成さん」
あたしは、玄関で様子をうかがっていた彼を見やる。
「ちょっと、アキ。これは、アタシが売られたケンカよ」
「こらこら、舞子、勝手にケンカにするんじゃないよ」
「――喧嘩を売った覚えは無いが」
――ダメだ。これ以上はカオスになる。
「か、帰ります!あ……朝日さんっ!」
あたしは、足元に置いていたバッグ三つを抱え、更に仕事用のショルダーバッグを斜め掛けして玄関に向かう。
「ちょっと、美里!」
「ごめん、舞子!ちょっと、冷静になってから説明するから!」
「アンタね……!」
「とにかく!この人、今のところは大丈夫だし!秋成さん、舞子の事お願いします!」
あたしは、そう告げると、秋成さんに頭を下げて部屋を出る。
「おい、美里!お前は、何でそう大荷物なんだ!」
部長は、あたしの後を慌てたように追いかけてきて、そう言いながら、バッグを二つ奪い取る。
そして、苦々しく言われた。
「――……本気で、お前の収納能力に感心するぞ……」
あたしにとっては、いつもの重み。
けれど、部長にとって想定外のようで、思い切り眉を寄せられたのだった。