EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 舞子のアパートには、住民以外の駐車場は無い。
 部長の車は、近くのコインパーキングに停めてあった。
 暗い中、街灯に反射した黒々とした光沢は、手入れを怠っていない事をうかがわせる。
 中古とはいえ、年式は浅いのだろう。

「荷物は後ろに乗せておけ」

 バタン、と、音がして、あたしは我に返る。
 そして、持っていたバッグを後部座席に置くと、ショルダーバッグを下ろして手にする。
「し、失礼します……」
「コラ、待て、美里」
「え?」
 そのまま乗り込もうとしたあたしを、部長が不機嫌そうに止めた。
 ――何よ、今さら一人で帰れとか言わないわよね。
 あたしが眉を寄せると、一瞬あっけにとられたような表情になった部長は、こちら側に来ると、助手席のドアを開けた。
「何、そのまま乗ろうとしてるんだ。助手席だろうが、普通は」
「え」
 キョトンとしたあたしの腕を取ると、少々、強い力で引き寄せ、そのまま助手席に乗せた。
 そして、ドアを閉めると、自分は運転席に乗り込む。
「……帰るぞ」
「……ハ、ハイ……」
 やっぱり、不機嫌なオーラは隠さず、部長はエンジンをかけると、すぐに発車させた。

 舞子のアパートから、マンションまで、二人終始無言のまま。
 気まずい事この上無いのだけれど、何の話題を振っても自爆しそうで、口にできなかった。
 そして、駐車場に停めると、再び部長はバッグを持ち、あたしを見やる。
「――そっちも貸せ」
「え、いえ、これくらい普通に持てますから」
 既に、一つ持っていたあたしのバッグに視線を向けて言われてしまい、あたしは首を振った。
「――……見くびるな。腕力くらい、お前よりはある」
 そう言いながら、部長は、手を伸ばす。
「いや、そういう問題じゃなくて」
 それを避けるように、あたしはバッグを自分の身体側に引き寄せた。
 ――これくらい、自分で持てるわ!
 ――アンタが思ってるより、腕力あるから!
 そう、心の中でぼやいてみる。
「じゃあ、何だ」
 けれど、部長はあきらめようとしない。
 直通のエレベーターに向かいながら、持っていた荷物を二人で奪い合う。
 一体、何をしてるんだ、あたし達は。
 すると、大きなため息が聞こえ、あたしは顔を上げた。

「――……一体、何をしてるんだろうな、オレ達は」

「……ええ、ホントに!」

 頭の中を見透かされたように同じ言葉を言われてしまい、あたしはふてくされたように視線を逸らした。
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