EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
結局、あたしが譲る事は無かったので、部長はバッグを二つ持ち、マンション最上階までエレベーターに二人で乗り込む。
しん、と、した空気の中、二人言葉を発する事も無い。
――別に、恋愛感情があって、恋人になった訳でもないんだし。
けれど、コミュニケーションが取れないのは、仕事上でも困る。
エレベーターが到着し、二人で廊下を歩き出すと、あたしは思い切って部長に言った。
「――あの……何も言わずに舞子のアパートに行ったのは謝りますけれど……何で、そんなに不機嫌にされないといけないんですか」
すると、部長は、あたしをチラリと見やり、立ち止まる。
「……部長?」
「――……別に、不機嫌という訳ではない」
「でも」
「ただ……お前、何で、名前で呼ばせてる」
「へ?」
キョトンとするあたしに、部長は苦々しい顔をして続けた。
「だからっ……あの男は、お前の事を名前で呼んでいただろうが。そういうものを簡単に許しているから、妙な男に……」
「――……は??」
ゴチャゴチャと何か言い続けていた部長を、あたしは、まじまじと見た。
「……あの男?」
「部屋にいただろう、オレよりデカイ奴が」
「ああ、秋成さんの事ですか。舞子の彼氏ですけど」
「だからって、何でお互い名前で呼び合ってるんだ」
「何でって――別に、最初からこうでしたけど」
「アイツが最初からなら、オレの名前だって呼べるだろうが」
徐々にイラついた雰囲気になっていく。
――何で、あたしが責められなきゃいけないのよ。
あたしは、眉を寄せ、部長をにらむように見上げた。
「何か、言いがかりつけられてるみたいなんですが。徐々に慣れていけって言ったのは、部長でしょうが」
「――だからっ……」
部長は、床に投げるように荷物を置いて、あたしを抱き寄せた。
――……は??
思わず、あたしの手からバッグが滑り落ちる。
ドサリ、と、鈍い音が廊下中に響くが、ここにはあたし達しかいない。
「――え、あの、部長?」
「――……"恋人"は、上司より優先されないのか?」
「え」
あたしは、状況が把握しきれず、顔を無理矢理上げて、部長を見上げる。
――え。
すると、視界に入ったのは、真っ赤になった部長の端正な横顔。
――ああ、イケメンって、やっぱりどんな状況でもイケメンなのね。
そんな現実逃避が起こりそうな程、あたしの頭の中は混乱している。
「……部長?」
あたしが呼びかけると、部長は眉を寄せた。
意地でも名前で呼べと。
――ああ、もう、何て面倒な男。
あたしは、無理矢理身体を押しのけるように離すと、部長を見上げて言った。
「……だからっ……良いじゃないですか、部長は部長なんですから」
けれど、部長は表情を変える事なく――
「――……お前は、今、オレの恋人なんだ。――他の男に、気安く名前を呼ばせるな」
――そんな、ドラマの中でしか聞いた事の無いような――甘い言葉を口にした。
あたしの目は、これでもかと丸くなる。
――え、何それ……。
――……そんなの……。
「……何か……部長、ヤキモチ焼いてるみたい……」
そうポツリとこぼすと、部長は、ギシリ、と固まった。
しん、と、した空気の中、二人言葉を発する事も無い。
――別に、恋愛感情があって、恋人になった訳でもないんだし。
けれど、コミュニケーションが取れないのは、仕事上でも困る。
エレベーターが到着し、二人で廊下を歩き出すと、あたしは思い切って部長に言った。
「――あの……何も言わずに舞子のアパートに行ったのは謝りますけれど……何で、そんなに不機嫌にされないといけないんですか」
すると、部長は、あたしをチラリと見やり、立ち止まる。
「……部長?」
「――……別に、不機嫌という訳ではない」
「でも」
「ただ……お前、何で、名前で呼ばせてる」
「へ?」
キョトンとするあたしに、部長は苦々しい顔をして続けた。
「だからっ……あの男は、お前の事を名前で呼んでいただろうが。そういうものを簡単に許しているから、妙な男に……」
「――……は??」
ゴチャゴチャと何か言い続けていた部長を、あたしは、まじまじと見た。
「……あの男?」
「部屋にいただろう、オレよりデカイ奴が」
「ああ、秋成さんの事ですか。舞子の彼氏ですけど」
「だからって、何でお互い名前で呼び合ってるんだ」
「何でって――別に、最初からこうでしたけど」
「アイツが最初からなら、オレの名前だって呼べるだろうが」
徐々にイラついた雰囲気になっていく。
――何で、あたしが責められなきゃいけないのよ。
あたしは、眉を寄せ、部長をにらむように見上げた。
「何か、言いがかりつけられてるみたいなんですが。徐々に慣れていけって言ったのは、部長でしょうが」
「――だからっ……」
部長は、床に投げるように荷物を置いて、あたしを抱き寄せた。
――……は??
思わず、あたしの手からバッグが滑り落ちる。
ドサリ、と、鈍い音が廊下中に響くが、ここにはあたし達しかいない。
「――え、あの、部長?」
「――……"恋人"は、上司より優先されないのか?」
「え」
あたしは、状況が把握しきれず、顔を無理矢理上げて、部長を見上げる。
――え。
すると、視界に入ったのは、真っ赤になった部長の端正な横顔。
――ああ、イケメンって、やっぱりどんな状況でもイケメンなのね。
そんな現実逃避が起こりそうな程、あたしの頭の中は混乱している。
「……部長?」
あたしが呼びかけると、部長は眉を寄せた。
意地でも名前で呼べと。
――ああ、もう、何て面倒な男。
あたしは、無理矢理身体を押しのけるように離すと、部長を見上げて言った。
「……だからっ……良いじゃないですか、部長は部長なんですから」
けれど、部長は表情を変える事なく――
「――……お前は、今、オレの恋人なんだ。――他の男に、気安く名前を呼ばせるな」
――そんな、ドラマの中でしか聞いた事の無いような――甘い言葉を口にした。
あたしの目は、これでもかと丸くなる。
――え、何それ……。
――……そんなの……。
「……何か……部長、ヤキモチ焼いてるみたい……」
そうポツリとこぼすと、部長は、ギシリ、と固まった。