EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
あたしは、総務部の部屋に戻ると、そのまま部長のところへ向かった。
「――部長、よろしいでしょうか」
「終わったか」
「ハイ。一応、最初という事ですが、先方の提示された企画で、数点、採用の方向でお願いしたいものがあります」
部長は、座ったままあたしを見上げると、うなづいた。
「了解。――まず、企画と内容等、申請書として上げてくれ。和田原課長を通してだ」
「承知しました」
あたしは、うなづいて自分の席に戻る。
申請書のフォームをダウンロードすると、そのまま作成を始めた。
今のところ、これ以外に仕事は抱えていないし、入寮申請はそんなにかからないから、集中してできる。
それに、高根さんが作ってくれた資料がわかりやすいので、添付ファイルから引用すれば、そんなに時間はかからないはずだ。
あたしは、残りの午前中の時間を丸々使い、申請書を書き上げて課長のパソコンに送った。
「――うん、良いと思うよ。部長に直接送って」
「ありがとうございます。承知しました」
そして、自分の席に戻ると、すぐに部長にメールで送る。
そこでちょうど、昼のベルが鳴った。
部の人間が、雑談をしながら部屋から出て行くのを見送ると、あたしは、パソコンをスリープにし、引き出しからお弁当を取り出す。
――今日も、やっぱり、部長お手製のお弁当だ。
いらないとも言えず、持って来てしまったが――やっぱり、問題は食べる場所だ。
結局、悩んだ末、昨日と同じ屋上への階段へ向かった。
「――お前は、ここが気に入っているのか」
階段に腰を下ろし、膝の上でお弁当を広げ始めると、昨日と同じように部長の声が足元の方から聞こえた。
その手には、同じようにお弁当。
「……放っておいてください」
手を合わせて食べ始めると、問答無用と言わんばかりに、部長が隣に腰を下ろす。
そして、気まずそうに続けた。
「――……あー……と……朝は、済まなかった」
「え」
思わぬ言葉に、あたしは部長を見る。
「……だが、お前もちゃんと、理由は伝えてくれ。理不尽に怒った感が否めない」
そう、苦笑いで言われ、あたしは、自分の手元に視線を移す。
昨日と同じく、色とりどりの美味しそうなおかずが、きちんと詰められていた。
「……いえ、完全な私用です。……急ごうと思えば、急げたはずなので」
「美里」
「――……会社では、やめてくださいと言いましたよね、部長」
無意識に頑なになってしまった口調に、部長は眉を寄せた。
「……悪い」
あたしは、軽く首を振った。
思い出してくれればいい。
無駄な事で、精神力を消耗したくない。
総務部の女性陣は、小坂主任を筆頭に、まあまあ男性に積極的な人が多く、そんな中で、下手に悪目立ちすると何を言われるかわからないのだ。
でも、それを説明しても、部長はきっと、気にするなと言って終わるだろう。
だから、ちゃんとクギを刺しておかないと。
あたしは、箸を持つ手を止めて、視線をお弁当に向けたまま言った。
「――あの、お弁当、ありがとうございます」
「いや、ついでだから、気にするな」
平然と返す部長は、自分のものを、あたしと同じようにヒザの上に乗せる。
「でも、もう、いいですから」
「え?」
あたしは、顔を上げる。
目の前には、戸惑うようにあたしを見ている部長の、端正な顔。
何をどうしたって、イケメンなんだな。
なんて、思考がそれてしまうが、すぐに戻した。
「――お弁当、中身チェックされたら、すぐに同じだってバレちゃいますよ」
「別に、構わんだろう」
「構います。だから、部屋で食べられないんです」
「み……し、白山?」
あたしは、視線を逸らして続ける。
ここで、ちゃんと言わないと、部長は、また作ってくれるだろう。
でも、それは――今のあたしには、困るのだ。
「――これ以上、他の人に気を遣わなきゃいけないような事、しないでもらえませんか」
「――白山」
部長は、手を止めてあたしを見つめる。
それを無視しながら、あたしは、お弁当をかき込むように口にしていく。
せっかくのおかずも、何だか味がしない。
「……迷惑、だったか」
その問いかけには、首を振る。
迷惑だと言ったら、バチが当たる。
でも、住む場所を提供してもらうだけでも、ありがたいのに――これ以上は、正直気が引けるのも確か。
――……それに……あたしは、何も部長にしてあげられていないのに……。
……何だか、これじゃあ、あたしがダメ女になるみたいだ。
無言のまま昼食を終え、あたしは、部長より先に階段を下りて、総務部の部屋に戻って行った。
「――部長、よろしいでしょうか」
「終わったか」
「ハイ。一応、最初という事ですが、先方の提示された企画で、数点、採用の方向でお願いしたいものがあります」
部長は、座ったままあたしを見上げると、うなづいた。
「了解。――まず、企画と内容等、申請書として上げてくれ。和田原課長を通してだ」
「承知しました」
あたしは、うなづいて自分の席に戻る。
申請書のフォームをダウンロードすると、そのまま作成を始めた。
今のところ、これ以外に仕事は抱えていないし、入寮申請はそんなにかからないから、集中してできる。
それに、高根さんが作ってくれた資料がわかりやすいので、添付ファイルから引用すれば、そんなに時間はかからないはずだ。
あたしは、残りの午前中の時間を丸々使い、申請書を書き上げて課長のパソコンに送った。
「――うん、良いと思うよ。部長に直接送って」
「ありがとうございます。承知しました」
そして、自分の席に戻ると、すぐに部長にメールで送る。
そこでちょうど、昼のベルが鳴った。
部の人間が、雑談をしながら部屋から出て行くのを見送ると、あたしは、パソコンをスリープにし、引き出しからお弁当を取り出す。
――今日も、やっぱり、部長お手製のお弁当だ。
いらないとも言えず、持って来てしまったが――やっぱり、問題は食べる場所だ。
結局、悩んだ末、昨日と同じ屋上への階段へ向かった。
「――お前は、ここが気に入っているのか」
階段に腰を下ろし、膝の上でお弁当を広げ始めると、昨日と同じように部長の声が足元の方から聞こえた。
その手には、同じようにお弁当。
「……放っておいてください」
手を合わせて食べ始めると、問答無用と言わんばかりに、部長が隣に腰を下ろす。
そして、気まずそうに続けた。
「――……あー……と……朝は、済まなかった」
「え」
思わぬ言葉に、あたしは部長を見る。
「……だが、お前もちゃんと、理由は伝えてくれ。理不尽に怒った感が否めない」
そう、苦笑いで言われ、あたしは、自分の手元に視線を移す。
昨日と同じく、色とりどりの美味しそうなおかずが、きちんと詰められていた。
「……いえ、完全な私用です。……急ごうと思えば、急げたはずなので」
「美里」
「――……会社では、やめてくださいと言いましたよね、部長」
無意識に頑なになってしまった口調に、部長は眉を寄せた。
「……悪い」
あたしは、軽く首を振った。
思い出してくれればいい。
無駄な事で、精神力を消耗したくない。
総務部の女性陣は、小坂主任を筆頭に、まあまあ男性に積極的な人が多く、そんな中で、下手に悪目立ちすると何を言われるかわからないのだ。
でも、それを説明しても、部長はきっと、気にするなと言って終わるだろう。
だから、ちゃんとクギを刺しておかないと。
あたしは、箸を持つ手を止めて、視線をお弁当に向けたまま言った。
「――あの、お弁当、ありがとうございます」
「いや、ついでだから、気にするな」
平然と返す部長は、自分のものを、あたしと同じようにヒザの上に乗せる。
「でも、もう、いいですから」
「え?」
あたしは、顔を上げる。
目の前には、戸惑うようにあたしを見ている部長の、端正な顔。
何をどうしたって、イケメンなんだな。
なんて、思考がそれてしまうが、すぐに戻した。
「――お弁当、中身チェックされたら、すぐに同じだってバレちゃいますよ」
「別に、構わんだろう」
「構います。だから、部屋で食べられないんです」
「み……し、白山?」
あたしは、視線を逸らして続ける。
ここで、ちゃんと言わないと、部長は、また作ってくれるだろう。
でも、それは――今のあたしには、困るのだ。
「――これ以上、他の人に気を遣わなきゃいけないような事、しないでもらえませんか」
「――白山」
部長は、手を止めてあたしを見つめる。
それを無視しながら、あたしは、お弁当をかき込むように口にしていく。
せっかくのおかずも、何だか味がしない。
「……迷惑、だったか」
その問いかけには、首を振る。
迷惑だと言ったら、バチが当たる。
でも、住む場所を提供してもらうだけでも、ありがたいのに――これ以上は、正直気が引けるのも確か。
――……それに……あたしは、何も部長にしてあげられていないのに……。
……何だか、これじゃあ、あたしがダメ女になるみたいだ。
無言のまま昼食を終え、あたしは、部長より先に階段を下りて、総務部の部屋に戻って行った。