EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 そのまま、気が遠くなるほどのキスを終え、朝日さんが、あたしを見ると、少しだけ気まずそうに言った。
「……嫌じゃなかったか」
「え?」
「――いや、いい」
 あたしが、キョトンとするのを見て、ホッとしたようだ。
 朝日さんは、指でそっとあたしの口元に触れる。
 思わず反射で目を閉じると、彼は苦りながら、またお前は、と、ボヤいた。
「あんまり煽るな」
 ――何よ、それ。
 目を開け、にらもうとするが、朝日さんの困ったような、うれしそうな表情に言葉を飲み込む。
 そして、また軽くキスをされて、目を閉じてしまう。
 大ききな手で頬に触れられると、するり、と、撫でられた。

「んっ……」

 条件反射のように、肩が上がる。
 何だか、どこを触られても反応してしまう。
 朝日さんは、そのまま深く口づけてきて、あたしもそれに応える。
 まるで、映画のキスシーンのよう。
 自分が、こんな風になれるなんて、思ってもみなかった。
 ――今までの男は、自分の思うようにしか触れてこなかったから。
 大事にされている実感なんて、何にも無くて。
 ――でも……あたしも、それでも良いんだと思っていた。
 それで、いらないって言われるよりは、我慢すればいいんだって――。

「――美里」

「……え……?」

 不意に唇が離され、あたしは目を開ける。
 視界に入るのは、眉を寄せている朝日さん。
 ――あたし、何かやらかした……?
 一瞬、ギクリとしてしまう。
「……あの……?」
 恐る恐る尋ねようとすると、言葉は遮られた。
「――……悪い。……もう、休め」
「え?」
 唐突に言われ、あたしは、背を向けた朝日さんを見つめた。
「――……何があったかは聞かない。――……だが、想像はできる」
「……朝日さん?」
「――……そこら中に、ついてる」
「――え」
 あたしは、何の事かと思ったが、朝日さんがそのまま自分の首元を指さしたのを見て、さっきの寿和がやらかした事を思い出した。
 急いで服の中を見ると、赤いものがそこかしこに。
 ――あのバカ……‼
「……こ、れはっ……その……」
「――無理に言わなくてもいい」
 あたしが説明しようとすると、朝日さんは、そう言って抱き締める。
 気を遣ってくれているんだろう。
 でも、それは――あたしに向き合うのを拒否されているような気がして、少しさみしいと思った。
「――もう寝ろ。今日は、オレのベッドを使え」
「え、で、でも」
 ――さすがに、それは、いろいろとマズイんじゃ……。
 そう思い断ろうとすると、朝日さんは、あたしを軽々と抱き上げた。
「きゃあっ……⁉」
 急に襲ってきた浮遊感に、思わず抱き着いてしまう。
 朝日さんは、口元を上げると、あたしに軽く口づけた。

「家主が良いって言ってるんだ。素直に従っておけ」

「……横暴っ……!」

「嫌なら、一緒に寝るぞ」

「――……っ……‼」

 究極の二択。そこに、あたしが彼のベッドを使わないという選択肢は無く。
 ――結局、仕方なく、従う事にした。
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