EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「偶然ですね!お休みですか」

「あ、ハ、ハイ……」

 屈託なく笑う高根さんに、一瞬だけ戸惑う。
 ――こんな頻繁に会うなんて……何かあるんだろうか。
 偶然も、重なっていけば必然に思える。
 あたしは、少しだけ彼から距離を取り、うなづいた。
 寿和の事があるせいで、必要以上に警戒してしまうのだ。
 本当は、そんな風に疑いたくなんて無いのに……。
 けれど、高根さんは何も気にせずに続けた。

「僕は、次のイベント関連の買い出しなんです。鈴原冷食(すずはらさん)とは別の会社で、キャンプを企画してまして」

「あ、そ、そうなんですか。――キャンプ、ですか」

 あたしは、ほんの少しだけホッとしてうなづく。
 確かに、それならばホームセンターに用はあるはずだ。
 ここは、近隣では最大規模の広さを誇る売り場面積。
 必要なものを探しに来たって、おかしくはない。
 自意識過剰に恥ずかしさを覚える。

 ――……あたしに、利用価値はあっても、女としての価値なんて、無いんだろうから、当然なのに……。

「あ、あの、白山さんは……日用品の買い出しとか、ですか?」
 間を保とうとしてか、高根さんはあたしに尋ねた。
「あ、いえ、あの……」

「美里」

 すると、言葉を遮るように、名前が呼ばれ、あたしと高根さんは同時にそちらを見やった。

 ――何で、名前で呼ぶのよ!

 あたしは、こちらに向かってきた朝日さんをにらみつける。
 けれど、彼は平然と高根さんを見やり、軽く頭を下げた。
「――……え、あ、あれ……?……あなた……鈴原冷食(すずはらさん)の……」
「ええ、先日は白山がお世話になりました。総務部長の黒川です」
 そう言うと、朝日さんはあたしを見やる。
「――で、こっちで買う物はあったのか、美里」
「……っ……!」
 あたしが硬直したままでいると、高根さんが恐る恐る尋ねてきた。
「……え……っと……あの……お二人って……」
「ええ、ご覧の通りですが?」
 しれっと、そう言って、朝日さんはあたしの手を取った。
 高根さんは、視線をさまよわせながら、ひきつるように笑う。
「あ、そう、でしたか。すみません、お邪魔してしまって」
「いえ、構いませんよ」
 にこやかに、通りすがりの女性たちが見とれるような笑顔を向けながら、朝日さんは高根さんに言った。
「で、美里、用が終わったなら行くぞ」
「――え、あ……ハイ……」
「では、私達はこれで。――また、お世話になります」
「あ、ハ、ハイ。こちらこそ、よろしくお願いします」
 高根さんに挨拶をすると、朝日さんは、あたしの手を取ったまま歩き出す。
 あたしは、気まずいまま彼に頭を軽く下げると、少しだけ微笑んで返してくれた。
 ――……ああ、もう……次に会うの、気まずいな……。
 先を進む朝日さんを、思わずにらみつけてしまう。
「――何だ」
 その視線に気がついたのか、振り返られてギクリとしてしまうが、あたしは思い切って言った。
「……何で、ごまかさないんですか。気まずいじゃないですか」

「――気まずくなればいい」

「え?」

 返された言葉に、あたしは眉を寄せる。
「何よ、それ。あたしの立場、考えてよ!」
 思わず出たタメ口を気にも留めず、スタスタと朝日さんは車へと、あたしを引きずるように連れて行き、助手席に押し込む。
「ちょっ……!」
「――この前から、お前、あの男と距離近くないか」
「……え?」
 運転席に乗り込み、そう言って、エンジンをかける朝日さんを、あたしは、目を丸くして見た。

 ――気のせい……?顔が赤いような……。

 ――え、あれ……?

 さっきの態度といい、今の言葉といい――もしかして……。

「……朝日さん……ヤキモチ……?」

「うるさい……っ……!行くぞっ……!」

 あたしの言葉を遮るように、車を出す朝日さんを見やる。
 図星だったのか、ふてくされた横顔は――何だか、幼くて、ちょっとだけ可愛く思えてしまった。
< 70 / 195 >

この作品をシェア

pagetop