EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――あ、す、すみません。すぐに帰りますから」
もう、就業時間は終わったのだから、早く帰れという事か。
あたしは、パソコンの画面を閉じると、デスクの引き出しに入れていたバッグを取り出す。
だが、部長は少々気まずそうに周囲に視線を向けて、あたしに向き直った。
もう、社員で残っているのは、あたしだけだ。
総務部の仕事は、その気になれば、完全に定時で終了できる。
ウチの総務は、営業などの主だった仕事以外の、ほとんどを請け負っているけれど、一人一人に細かく担当を割り振っているのだ。
そして、終わらない量を抱えたら、手が空いた人間が手伝う。
全員が、配属時にすべての業務を教え込まれるので、誰に振っても大丈夫なようにしているのだ。
まあ、伝統と言えば、伝統だ。
「――白山さん?」
思考がそれたあたしを、いぶかしそうに部長が見やる。
「――じゃあ、お先に失礼します」
あたしは、何か言われる前に出て行くのが得策と思い、軽く頭を下げると、歩き出そうとした。
だが、言葉よりも先に左腕をつかまれ、顔を上げる。
「……あの……?」
「――……ああ、悪い」
部長は、我に返ったように言うが、腕はつかんだまま、気まずそうに続けた。
「……勘違いじゃないなら……一昨日、橋で会ったよな?」
一瞬、しらを切ろうかとも思ったが、その視線に、ウソは通じないような気がしてあきらめた。
「……お見苦しいところを、お見せしました」
あたしは、再び頭を下げると、部長の腕から逃れようとするが、力の差か、びくともしない。
「……大丈夫だったのか?」
「――大丈夫に見えました?」
「見えなかったな」
「でも、部長には関係無いでしょう。仕事はちゃんとするので、ご安心ください」
あたしは、そう告げ、つかまれていた手を力任せに振り払った。
「おい」
顔に似合わぬ低い声が、あたしを呼び止めるが、止まらずに歩く。
早く逃げよう。
――あんなトコ見られただけでも、気まずいっていうのに。
あたしは、急いでエレベーターのボタンを押す。
すぐに扉は開いたので、乗り込み、一階まで下りた。
――……ああ、もう……やりづらくなりそう……。
これからを考え、あたしは、大きくため息をついたのだった。
その後、二日ほど、空いた時間にスマホとにらめっこして部屋を探してはみたが、条件が合うところが見つからない。
そんなに贅沢は望んでいないはずなんだけれど、希望エリアに物件が少なく、それも満杯状態。
少し条件を外すと、遠くに二件ほどあったが、会社までの通勤を考えるとあまり選びたくはなかった。
「……ああ、もう……。駅まで徒歩十分以内、ワンルーム――バストイレつき。そんなに高望みじゃないはずなのに……」
思わずスマホを投げ出すと、床に寝転ぶ。
いまだに舞子の部屋に世話になっているのだが、部屋の借主は絶賛就業中だ。
あたしは、顔を伏せると、目をきつくつむった。
――一人になると、どうしても、グルグルと回ってしまう。
離れたら、アイツの良いトコロだけが思い出されてしまい、単純な自分の思考に嫌気がさすのだ。
あれだけ、蔑ろにされていたのに。
都合の良い女。
――母親のような女。
そう、言い切られた。
浮気を隠そうともされない。
そんな扱いを受けたのに――何で、あたしは……。
――……もう、次は無いのかな……。
付き合う人間すべて、ダメ男なら――付き合わない方が良いのか。
いや、舞子に言わせれば、あたしが、ダメ男にしてしまうんだ。
でも、やっぱり――あたしを大事に想ってくれる人に逢いたい。
お互いに必要とされ、必要としたい。
――……それは、高望みなのかな……。
あたしは、うつらうつらとしながら、そんな事をグルグル考えていた。
もう、就業時間は終わったのだから、早く帰れという事か。
あたしは、パソコンの画面を閉じると、デスクの引き出しに入れていたバッグを取り出す。
だが、部長は少々気まずそうに周囲に視線を向けて、あたしに向き直った。
もう、社員で残っているのは、あたしだけだ。
総務部の仕事は、その気になれば、完全に定時で終了できる。
ウチの総務は、営業などの主だった仕事以外の、ほとんどを請け負っているけれど、一人一人に細かく担当を割り振っているのだ。
そして、終わらない量を抱えたら、手が空いた人間が手伝う。
全員が、配属時にすべての業務を教え込まれるので、誰に振っても大丈夫なようにしているのだ。
まあ、伝統と言えば、伝統だ。
「――白山さん?」
思考がそれたあたしを、いぶかしそうに部長が見やる。
「――じゃあ、お先に失礼します」
あたしは、何か言われる前に出て行くのが得策と思い、軽く頭を下げると、歩き出そうとした。
だが、言葉よりも先に左腕をつかまれ、顔を上げる。
「……あの……?」
「――……ああ、悪い」
部長は、我に返ったように言うが、腕はつかんだまま、気まずそうに続けた。
「……勘違いじゃないなら……一昨日、橋で会ったよな?」
一瞬、しらを切ろうかとも思ったが、その視線に、ウソは通じないような気がしてあきらめた。
「……お見苦しいところを、お見せしました」
あたしは、再び頭を下げると、部長の腕から逃れようとするが、力の差か、びくともしない。
「……大丈夫だったのか?」
「――大丈夫に見えました?」
「見えなかったな」
「でも、部長には関係無いでしょう。仕事はちゃんとするので、ご安心ください」
あたしは、そう告げ、つかまれていた手を力任せに振り払った。
「おい」
顔に似合わぬ低い声が、あたしを呼び止めるが、止まらずに歩く。
早く逃げよう。
――あんなトコ見られただけでも、気まずいっていうのに。
あたしは、急いでエレベーターのボタンを押す。
すぐに扉は開いたので、乗り込み、一階まで下りた。
――……ああ、もう……やりづらくなりそう……。
これからを考え、あたしは、大きくため息をついたのだった。
その後、二日ほど、空いた時間にスマホとにらめっこして部屋を探してはみたが、条件が合うところが見つからない。
そんなに贅沢は望んでいないはずなんだけれど、希望エリアに物件が少なく、それも満杯状態。
少し条件を外すと、遠くに二件ほどあったが、会社までの通勤を考えるとあまり選びたくはなかった。
「……ああ、もう……。駅まで徒歩十分以内、ワンルーム――バストイレつき。そんなに高望みじゃないはずなのに……」
思わずスマホを投げ出すと、床に寝転ぶ。
いまだに舞子の部屋に世話になっているのだが、部屋の借主は絶賛就業中だ。
あたしは、顔を伏せると、目をきつくつむった。
――一人になると、どうしても、グルグルと回ってしまう。
離れたら、アイツの良いトコロだけが思い出されてしまい、単純な自分の思考に嫌気がさすのだ。
あれだけ、蔑ろにされていたのに。
都合の良い女。
――母親のような女。
そう、言い切られた。
浮気を隠そうともされない。
そんな扱いを受けたのに――何で、あたしは……。
――……もう、次は無いのかな……。
付き合う人間すべて、ダメ男なら――付き合わない方が良いのか。
いや、舞子に言わせれば、あたしが、ダメ男にしてしまうんだ。
でも、やっぱり――あたしを大事に想ってくれる人に逢いたい。
お互いに必要とされ、必要としたい。
――……それは、高望みなのかな……。
あたしは、うつらうつらとしながら、そんな事をグルグル考えていた。