EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
お昼のベルが鳴り、それぞれが部屋を出て行く中、あたしは、大きく息を吐く。
手元の書類には、付箋がベタベタ貼ってある。
先週は、概要だけだったけれど、今は違う。
細かいところを突っ込まれないように、ささいな疑問点を洗い出して、午後からの打ち合わせに備えた。
朝日さんが、さっそく連絡を取ってくれたおかげで、高根さんと早々と顔を合わせないといけなくなってしまったのだ。
少しでも、早く終わらせたかったので、準備だけは万端にしておかなければ。
「美里」
頭上からの声に、あたしは、ギョッとして顔を上げた。
「ぶ、部長‼」
――何で、名前で呼んでんのよ!
目だけでそう訴えれば、困ったように微笑まれた。
その表情に、胸は高鳴る。
「平気だ、誰もいない」
「誰かが戻ってきたりしたら……!」
特に、小坂主任に聞かれた日には、面倒な事、この上無いじゃない!
慌てるあたしに、朝日さんは苦笑いだ。
「――その辺は抜かりない。ちゃんと確認している」
そう言って、あたしの頭を軽くたたく。
「それより、昼メシ、ここで食べないか」
「……でも」
「大丈夫だ。弁当組は、元々、オレ達くらいなものだろ」
あたしは、チラリと周囲を見渡す。
本当に誰もいないし……まあ、この状況なら、打ち合わせも兼ねてとでも、ごまかせるだろう。
「……わかりました」
あたしは、渋々うなづくと、後ろのテーブルセットに移動した。
部屋で昼食は取れるが、一応、専用の場所があるのだ。
二人で向かい合って、お弁当を開ける。
「……美味そうだな」
「え」
すると、朝日さんは、あたしのお弁当に箸を伸ばした。
「ちょっ……!」
せっかく作った卵焼きを持って行かれ、あたしは、頬を膨らませた。
「朝日さん!」
「怒るな、オレのと交換してやるから」
そう言って、自分のお弁当の鶏から揚げを、あたしのお弁当の蓋に移動させる。
「……ズルい」
あたしは、言いながら、それを口にする。
明らかに手作りのそれは、冷めていても味がしっかりとついていて、柔らかい。
――……何で、こんなに何でもできるのよ。
「……美味しいです」
あたしが、ふてくされながらも言うと、
「お前のも美味い」
朝日さんも、そう返した。
お互いに視線を交わすと、少しだけ照れ臭くなって下を向いてしまう。
まるで、学生のような――。
でも、あたしには新鮮だった。
「ああ、そうだ。今日、これから先方と打ち合わせだろう」
「え、あ、ハイ。――そのはずですが」
――ていうか、それ、決めたの、朝日さんよね。
そんな含みに気づいてか、彼は眉を下げる。
「怒るな。早い方が良いだろう、こういうものは。大体、オレだって誰かと代わらせたかったぞ」
「え」
「――オレは心が狭いと、何回言わせるんだ。……お前、あの男に気に入られているようだったからな」
その言葉に、あたしは、一瞬ギクリとする。
朝の、小坂主任の言葉がよみがえる。
――高根さんが、あなた目当てだってコトで、協力してくれって言われたの。
あたしは、軽く首を振ると、苦笑いで返した。
「……気のせいですよ」
「なら良いんだがな」
「それに、下手に避けたら、高根さんだって仕事がやりづらいじゃないですか。取引先相手に、それはマズいでしょう」
そう言えば、朝日さんは、渋々うなづいた。
「……まあ、それもそうなんだがな」
「じゃあ、割り切りましょう。――帰ったら、ちゃんと、甘えさせてあげますから」
あたしが、からかい気味に言うと、朝日さんは、一瞬ポカンと口を開けて見返し、そして、ムスリとそっぽを向く。
「……朝日さん?」
「……それは、男のオレのセリフだろうが」
「良いじゃないですか、そんなの。……ホント、考え方がオジサンなんだから」
「……おい、美里」
思わず出た言葉に、朝日さんは敏感に反応する。
やっぱり、”オジサン”は、地雷らしい。
「ごめんなさい、気にしてました?」
「――……お前、帰ったら覚えておけよ」
若干ひきつりながら、朝日さんは、あたしをにらみながら言うと、食べ終えたお弁当を片付けたのだった。
手元の書類には、付箋がベタベタ貼ってある。
先週は、概要だけだったけれど、今は違う。
細かいところを突っ込まれないように、ささいな疑問点を洗い出して、午後からの打ち合わせに備えた。
朝日さんが、さっそく連絡を取ってくれたおかげで、高根さんと早々と顔を合わせないといけなくなってしまったのだ。
少しでも、早く終わらせたかったので、準備だけは万端にしておかなければ。
「美里」
頭上からの声に、あたしは、ギョッとして顔を上げた。
「ぶ、部長‼」
――何で、名前で呼んでんのよ!
目だけでそう訴えれば、困ったように微笑まれた。
その表情に、胸は高鳴る。
「平気だ、誰もいない」
「誰かが戻ってきたりしたら……!」
特に、小坂主任に聞かれた日には、面倒な事、この上無いじゃない!
慌てるあたしに、朝日さんは苦笑いだ。
「――その辺は抜かりない。ちゃんと確認している」
そう言って、あたしの頭を軽くたたく。
「それより、昼メシ、ここで食べないか」
「……でも」
「大丈夫だ。弁当組は、元々、オレ達くらいなものだろ」
あたしは、チラリと周囲を見渡す。
本当に誰もいないし……まあ、この状況なら、打ち合わせも兼ねてとでも、ごまかせるだろう。
「……わかりました」
あたしは、渋々うなづくと、後ろのテーブルセットに移動した。
部屋で昼食は取れるが、一応、専用の場所があるのだ。
二人で向かい合って、お弁当を開ける。
「……美味そうだな」
「え」
すると、朝日さんは、あたしのお弁当に箸を伸ばした。
「ちょっ……!」
せっかく作った卵焼きを持って行かれ、あたしは、頬を膨らませた。
「朝日さん!」
「怒るな、オレのと交換してやるから」
そう言って、自分のお弁当の鶏から揚げを、あたしのお弁当の蓋に移動させる。
「……ズルい」
あたしは、言いながら、それを口にする。
明らかに手作りのそれは、冷めていても味がしっかりとついていて、柔らかい。
――……何で、こんなに何でもできるのよ。
「……美味しいです」
あたしが、ふてくされながらも言うと、
「お前のも美味い」
朝日さんも、そう返した。
お互いに視線を交わすと、少しだけ照れ臭くなって下を向いてしまう。
まるで、学生のような――。
でも、あたしには新鮮だった。
「ああ、そうだ。今日、これから先方と打ち合わせだろう」
「え、あ、ハイ。――そのはずですが」
――ていうか、それ、決めたの、朝日さんよね。
そんな含みに気づいてか、彼は眉を下げる。
「怒るな。早い方が良いだろう、こういうものは。大体、オレだって誰かと代わらせたかったぞ」
「え」
「――オレは心が狭いと、何回言わせるんだ。……お前、あの男に気に入られているようだったからな」
その言葉に、あたしは、一瞬ギクリとする。
朝の、小坂主任の言葉がよみがえる。
――高根さんが、あなた目当てだってコトで、協力してくれって言われたの。
あたしは、軽く首を振ると、苦笑いで返した。
「……気のせいですよ」
「なら良いんだがな」
「それに、下手に避けたら、高根さんだって仕事がやりづらいじゃないですか。取引先相手に、それはマズいでしょう」
そう言えば、朝日さんは、渋々うなづいた。
「……まあ、それもそうなんだがな」
「じゃあ、割り切りましょう。――帰ったら、ちゃんと、甘えさせてあげますから」
あたしが、からかい気味に言うと、朝日さんは、一瞬ポカンと口を開けて見返し、そして、ムスリとそっぽを向く。
「……朝日さん?」
「……それは、男のオレのセリフだろうが」
「良いじゃないですか、そんなの。……ホント、考え方がオジサンなんだから」
「……おい、美里」
思わず出た言葉に、朝日さんは敏感に反応する。
やっぱり、”オジサン”は、地雷らしい。
「ごめんなさい、気にしてました?」
「――……お前、帰ったら覚えておけよ」
若干ひきつりながら、朝日さんは、あたしをにらみながら言うと、食べ終えたお弁当を片付けたのだった。