EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
fight.19
午後一番で、あたしは、机の上にある資料をまとめてクリアファイルに挟めると、貴重品バッグを持った。
急きょ入れてもらった打ち合わせなので、高根さんの時間が動かせなかったらしい。
なので、午後から、あたしがライフプレジャー社に直接打ち合わせに向かう事で話が決まった。
ここから、電車で一時間半、あたし達の最寄り駅から、更に会社と反対側に向かうので、いっそ直帰で良いと言われてしまった。
ロッカールームからバッグを持つと、社員や取引先の営業が行き交うロビーを通り過ぎ、社員用の出入口から出る。
まだ、日の高い中、会社から出るのは初めてで、何だか気まずい。
――まるで、ズルして帰るよう。
終了後に、会社にいる朝日さんに連絡すれば、退勤処理をしてくれるという事なのだけれど、どうしても気が引ける。
……それは、相手が、高根さんだからなんだろうか。
あたしは、軽く首を振ると、駅に向かい歩き、ちょうどやってきた電車に乗り込んだ。
――私情は挟まない。
朝日さんが、あたしに任せてくれたんだから、せめて、失望だけはさせないように――期待外れだなんて、言われないようにしなきゃ。
あたしは、電車の中で座ると、ライフプレジャー社までの道のりを確認して頭に叩き込んだ。
電車を降りて、更に徒歩で十五分。
オフィスビルが立ち並ぶ中、こじんまりとした三階建てのビルの二階に、ライフプレジャー社はあった。
看板を確認して階段を上り、すぐに見えたシンプルなドアを軽くノックする。
「ハイハイー!」
陽気な声が中から聞こえ、すぐに、勢いよくドアが開けられた。
一瞬たじろぐと、目の前には先日の合コンで会った、社長の彼の姿。
あたしの顔を見ると、覚えていたようで、笑顔で迎えてくれた。
「ああ、いらっしゃい、白山さん。すみませんね、わかりづらい所で」
「――いえ。こちらこそ、無理を押して、申し訳ありません」
あたしが、そう言って頭を下げると、社長は肩をすくめる。
「いえいえ。本来なら、高根を向かわせるところだったんですけど、今、ギリギリで押してる案件があって、時間が取れなくて申し訳ないです」
そう言うと、社長自ら、あたしを応接スペースまで連れて行く。
あたしは、頭を下げると、ソファに座った。
少し硬い感触だが、気にはならない程度だ。
すると、社長は、既に淹れてあったらしいコーヒーをカップに注ぎ、差し出してくる。入った時には、良い香りは漂ってきていた。
「良かったら、どうぞ。高根のおすすめなんですよ」
「――ありがとうございます。いただきます」
あたしは、軽く頭を下げ、カップに口をつける。
――ああ、やっぱり、美味しいな。
こだわっている、っていう、高根さんが選んだのだから、ハズレではないはずだ。
半分ほど飲むと、あたしは、チラリと辺りを見回す。
ベンチャー企業で、いろいろ節約と言っていた割には、インテリアや備品はキレイなもので揃えられているし、雑居ビルのような外観だったけれど、中はちゃんとした設備のようだ。
「遅くなりました、白山さん!」
そんな事をぼんやり考えていると、高根さんが、急いでこちらにやって来て、頭を下げる。
あたしはすぐに立ち上がって、同じように頭を下げた。
「いえ、こちらが無理を言ったのですから、お気になさらずに」
すると、高根さんは、あたしをじっと見てくる。
「……あの……?」
「あ、いえ、その……部長さんから、直接のお申し出だったので……良かったのかと思って」
「え?」
高根さんは、聞き返したあたしを、少しだけ気まずそうに見た。
「……あの……彼女だとおっしゃっていたので……僕の事、良く思われていないのかと」
――だから、ごまかそうって言ったのに!
――朝日さんのバカ!
あたしは、思わず心の中で、朝日さんに毒づいてしまう。
そして、軽く首を振ると、高根さんに言った。
急きょ入れてもらった打ち合わせなので、高根さんの時間が動かせなかったらしい。
なので、午後から、あたしがライフプレジャー社に直接打ち合わせに向かう事で話が決まった。
ここから、電車で一時間半、あたし達の最寄り駅から、更に会社と反対側に向かうので、いっそ直帰で良いと言われてしまった。
ロッカールームからバッグを持つと、社員や取引先の営業が行き交うロビーを通り過ぎ、社員用の出入口から出る。
まだ、日の高い中、会社から出るのは初めてで、何だか気まずい。
――まるで、ズルして帰るよう。
終了後に、会社にいる朝日さんに連絡すれば、退勤処理をしてくれるという事なのだけれど、どうしても気が引ける。
……それは、相手が、高根さんだからなんだろうか。
あたしは、軽く首を振ると、駅に向かい歩き、ちょうどやってきた電車に乗り込んだ。
――私情は挟まない。
朝日さんが、あたしに任せてくれたんだから、せめて、失望だけはさせないように――期待外れだなんて、言われないようにしなきゃ。
あたしは、電車の中で座ると、ライフプレジャー社までの道のりを確認して頭に叩き込んだ。
電車を降りて、更に徒歩で十五分。
オフィスビルが立ち並ぶ中、こじんまりとした三階建てのビルの二階に、ライフプレジャー社はあった。
看板を確認して階段を上り、すぐに見えたシンプルなドアを軽くノックする。
「ハイハイー!」
陽気な声が中から聞こえ、すぐに、勢いよくドアが開けられた。
一瞬たじろぐと、目の前には先日の合コンで会った、社長の彼の姿。
あたしの顔を見ると、覚えていたようで、笑顔で迎えてくれた。
「ああ、いらっしゃい、白山さん。すみませんね、わかりづらい所で」
「――いえ。こちらこそ、無理を押して、申し訳ありません」
あたしが、そう言って頭を下げると、社長は肩をすくめる。
「いえいえ。本来なら、高根を向かわせるところだったんですけど、今、ギリギリで押してる案件があって、時間が取れなくて申し訳ないです」
そう言うと、社長自ら、あたしを応接スペースまで連れて行く。
あたしは、頭を下げると、ソファに座った。
少し硬い感触だが、気にはならない程度だ。
すると、社長は、既に淹れてあったらしいコーヒーをカップに注ぎ、差し出してくる。入った時には、良い香りは漂ってきていた。
「良かったら、どうぞ。高根のおすすめなんですよ」
「――ありがとうございます。いただきます」
あたしは、軽く頭を下げ、カップに口をつける。
――ああ、やっぱり、美味しいな。
こだわっている、っていう、高根さんが選んだのだから、ハズレではないはずだ。
半分ほど飲むと、あたしは、チラリと辺りを見回す。
ベンチャー企業で、いろいろ節約と言っていた割には、インテリアや備品はキレイなもので揃えられているし、雑居ビルのような外観だったけれど、中はちゃんとした設備のようだ。
「遅くなりました、白山さん!」
そんな事をぼんやり考えていると、高根さんが、急いでこちらにやって来て、頭を下げる。
あたしはすぐに立ち上がって、同じように頭を下げた。
「いえ、こちらが無理を言ったのですから、お気になさらずに」
すると、高根さんは、あたしをじっと見てくる。
「……あの……?」
「あ、いえ、その……部長さんから、直接のお申し出だったので……良かったのかと思って」
「え?」
高根さんは、聞き返したあたしを、少しだけ気まずそうに見た。
「……あの……彼女だとおっしゃっていたので……僕の事、良く思われていないのかと」
――だから、ごまかそうって言ったのに!
――朝日さんのバカ!
あたしは、思わず心の中で、朝日さんに毒づいてしまう。
そして、軽く首を振ると、高根さんに言った。