EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
fight.20
お互いに引き際がわからないまま、一言も言葉を交わす事なく、朝になった。
あたしは、自分の部屋にこもって、ぼんやりする頭と戦いながら、ミミズがのたくったような字で下書きを書き殴って、気がついたら寝落ちていた。
遺体発見現場のような自分の姿に、一瞬、苦い物が込み上がる。
だが、ゆっくりと起き上がり、スマホを見やれば時刻は既に七時半を過ぎていた。
「――……っ……!!!」
あたしは、勢いよく立ち上がる。
すると、一瞬、クラリ、と、視界がゆがんだ。
――……ああ、もう、こんな時に。
苦りながらも、部屋を出ると、既に朝食の香りが漂っている。
けれど――朝日さんの気配は無かった。
……もう、出たんだろうな……。
大きく息を吐くと、洗面所に向かい、ドアを開ける。
「――……え」
「……おい」
目の前には、お風呂上りの朝日さん。
その、下着一枚だけの引き締まった身体に、思わず見とれてしまったが、次には我に返って背を向けた。
「ごっ……ごめんなさい!てっきり、もう行ったと……!」
あたしは、言うだけ言って、ドアノブに手をかけようとする。
けれど、後ろからその手は掴まれた。
「……あ、朝日、さん……?」
「――……何だ」
「あの……離して……ください……」
「嫌だ」
「は?」
拗ねたような口調に、眉を寄せて振り返る。
すると、すぐに身体ごと朝日さんに向けられ、キスをされた。
完全に不意打ちを喰らったが、あたしは、両手で彼を引きはがした。
「朝日さん!」
「――……離したら、出て行くだろう」
「あ、当たり前でしょっ!早く服着て……」
「そうじゃない」
「え?」
彼は、再びあたしを抱き締めると、耳元でつぶやくように言った。
「――……ここを、出て行く気じゃないのか……?」
「――……え」
あたしは、彼を見やる。
――……同棲をやめる、って意味なのか。
「……その……言い方がキツかった自覚はあるから……」
いつもとは打って変わって弱々しい口調に、思わず口元が上がった。
――……そうか。
――……あたしが、部屋を出て行くと思ったのか、この人は。
そう気づけば、あたしを抱き締める彼の温もりが、とても愛おしく感じた。
背中に手を回すと、更にきつく抱きしめ返される。
「――出て行きませんよ。……朝日さんは、間違ってないんだし……」
ただ、あたしが意地になってるだけ。
――それを、認めるのが、何だか嫌なだけなんだ。
朝日さんは、ちゃんと、自分の責任を全うしようとしているだけなのに。
「……あの……でも……すみません。……あたし、自分でやりたいんです」
すると、彼はそっとあたしを離す。
「……そう言うと思った。――……だが、煮詰まったら、助けを求めるんだぞ」
「……ハイ」
あたしは、気まずくなりながらも、うなづく。
朝日さんを、こんなに不安にさせるくらいなら、いらない意地なんて張りたくないのに――でも、どうしても素直に受け切れない。
そんな気持ちを汲み取ってくれるのは、とても、うれしい。
あたしは、彼の胸に、そっと頬を寄せた。
「――美里?」
「……ありがとうございます」
「……ああ……」
朝日さんは、あたしをそっと抱き締めると、また、キスを落とす。
唇だけではなく、耳や首筋――胸元まで。そして、次には、その手が胸に触れた。
「……っん……!」
再び唇を重ねると、彼の手はやわやわと、あたしの様子をうかがいながら、触れてくる。
その、もどかしさに、身体の中が熱くなってきたが、どうにか理性を掘り起こし、彼の腕に手をかけた。
「――……あっ……朝日さん!これから仕事でしょ!」
「わかってる。――もう少しだけ」
気まずそうにうなづくが、朝日さんは、それでも、再び唇を重ね、思うままに堪能する。
あたしも、わかっているのに流されてしまい、しばらくの間、前戯のようなキスを続けた。
だが、急に我に返ったように彼はあたしを離し、真っ赤になって視線を逸らした。
「……朝日さん……?」
「――……悪い、先に出てくれ」
「え?」
「……刺激が強すぎた」
「え、あ」
背を向けた彼が呼吸を整えているのに気づき、気まずくなって、慌てて洗面所を出る。
――でも、あたしでも反応してくれたってコト……?
それが、何となくうれしくなって、口元が上がる。
けれど、リビングの棚にあった置時計が視界に入り、思わず叫んでしまった。
「っきゃああ――‼朝日さん、はっ……八時過ぎてるっ……!!」
あたしの叫びに応えるように、洗面所でガタガタと音がして、数分もせずに彼が飛び出してきた。
「美里、もう、一緒に乗って行け!」
「え、でも……」
「途中で拾ったとでも言えばいい!遅刻よりマシだろう!」
雑に身支度をしながら、朝日さんはソファに投げてあったスーツの上着を抱える。
「あと何分かかる?」
「――に、二十分欲しいです!」
「十五分にしろ!!」
どうにか、八時半前にマンションを出ると、制限速度ギリギリで車を飛ばし、あたしと朝日さんは、九時スレスレに総務部の部屋に飛び込んだのだった。
あたしは、自分の部屋にこもって、ぼんやりする頭と戦いながら、ミミズがのたくったような字で下書きを書き殴って、気がついたら寝落ちていた。
遺体発見現場のような自分の姿に、一瞬、苦い物が込み上がる。
だが、ゆっくりと起き上がり、スマホを見やれば時刻は既に七時半を過ぎていた。
「――……っ……!!!」
あたしは、勢いよく立ち上がる。
すると、一瞬、クラリ、と、視界がゆがんだ。
――……ああ、もう、こんな時に。
苦りながらも、部屋を出ると、既に朝食の香りが漂っている。
けれど――朝日さんの気配は無かった。
……もう、出たんだろうな……。
大きく息を吐くと、洗面所に向かい、ドアを開ける。
「――……え」
「……おい」
目の前には、お風呂上りの朝日さん。
その、下着一枚だけの引き締まった身体に、思わず見とれてしまったが、次には我に返って背を向けた。
「ごっ……ごめんなさい!てっきり、もう行ったと……!」
あたしは、言うだけ言って、ドアノブに手をかけようとする。
けれど、後ろからその手は掴まれた。
「……あ、朝日、さん……?」
「――……何だ」
「あの……離して……ください……」
「嫌だ」
「は?」
拗ねたような口調に、眉を寄せて振り返る。
すると、すぐに身体ごと朝日さんに向けられ、キスをされた。
完全に不意打ちを喰らったが、あたしは、両手で彼を引きはがした。
「朝日さん!」
「――……離したら、出て行くだろう」
「あ、当たり前でしょっ!早く服着て……」
「そうじゃない」
「え?」
彼は、再びあたしを抱き締めると、耳元でつぶやくように言った。
「――……ここを、出て行く気じゃないのか……?」
「――……え」
あたしは、彼を見やる。
――……同棲をやめる、って意味なのか。
「……その……言い方がキツかった自覚はあるから……」
いつもとは打って変わって弱々しい口調に、思わず口元が上がった。
――……そうか。
――……あたしが、部屋を出て行くと思ったのか、この人は。
そう気づけば、あたしを抱き締める彼の温もりが、とても愛おしく感じた。
背中に手を回すと、更にきつく抱きしめ返される。
「――出て行きませんよ。……朝日さんは、間違ってないんだし……」
ただ、あたしが意地になってるだけ。
――それを、認めるのが、何だか嫌なだけなんだ。
朝日さんは、ちゃんと、自分の責任を全うしようとしているだけなのに。
「……あの……でも……すみません。……あたし、自分でやりたいんです」
すると、彼はそっとあたしを離す。
「……そう言うと思った。――……だが、煮詰まったら、助けを求めるんだぞ」
「……ハイ」
あたしは、気まずくなりながらも、うなづく。
朝日さんを、こんなに不安にさせるくらいなら、いらない意地なんて張りたくないのに――でも、どうしても素直に受け切れない。
そんな気持ちを汲み取ってくれるのは、とても、うれしい。
あたしは、彼の胸に、そっと頬を寄せた。
「――美里?」
「……ありがとうございます」
「……ああ……」
朝日さんは、あたしをそっと抱き締めると、また、キスを落とす。
唇だけではなく、耳や首筋――胸元まで。そして、次には、その手が胸に触れた。
「……っん……!」
再び唇を重ねると、彼の手はやわやわと、あたしの様子をうかがいながら、触れてくる。
その、もどかしさに、身体の中が熱くなってきたが、どうにか理性を掘り起こし、彼の腕に手をかけた。
「――……あっ……朝日さん!これから仕事でしょ!」
「わかってる。――もう少しだけ」
気まずそうにうなづくが、朝日さんは、それでも、再び唇を重ね、思うままに堪能する。
あたしも、わかっているのに流されてしまい、しばらくの間、前戯のようなキスを続けた。
だが、急に我に返ったように彼はあたしを離し、真っ赤になって視線を逸らした。
「……朝日さん……?」
「――……悪い、先に出てくれ」
「え?」
「……刺激が強すぎた」
「え、あ」
背を向けた彼が呼吸を整えているのに気づき、気まずくなって、慌てて洗面所を出る。
――でも、あたしでも反応してくれたってコト……?
それが、何となくうれしくなって、口元が上がる。
けれど、リビングの棚にあった置時計が視界に入り、思わず叫んでしまった。
「っきゃああ――‼朝日さん、はっ……八時過ぎてるっ……!!」
あたしの叫びに応えるように、洗面所でガタガタと音がして、数分もせずに彼が飛び出してきた。
「美里、もう、一緒に乗って行け!」
「え、でも……」
「途中で拾ったとでも言えばいい!遅刻よりマシだろう!」
雑に身支度をしながら、朝日さんはソファに投げてあったスーツの上着を抱える。
「あと何分かかる?」
「――に、二十分欲しいです!」
「十五分にしろ!!」
どうにか、八時半前にマンションを出ると、制限速度ギリギリで車を飛ばし、あたしと朝日さんは、九時スレスレに総務部の部屋に飛び込んだのだった。