EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
fight.21
二人で部屋に帰ると、朝日さんは、問答無用で自分のベッドにあたしを寝かせた。
「ひとまず寝ておけ。明日、休んで医者に行くぞ」
「え、いえっ……大丈夫です。寝たら治りますから」
言い切るあたしに、彼は不機嫌さを隠さずに返す。
「ちゃんと治せと言っているんだがな。かかりつけの医者は、近くにあるのか?」
あたしは、視線を落とす。
「……美里?」
「……医者は……どこにも行ってません」
「は?」
言うだけ言って、あたしは布団に潜り込む。
昔から、医者にかかる機会もほとんど無かったし――就職してからは、何より、お金をかけたくなかったから会社の検診のみ。
毎月の給料は、ほとんど、元カレ達に費やして消えていったから、自分のためには使えなかったのだ。
改めて思うと――みじめだ。
そこまでしたのに、振られ続けたんだから。
思い返したら、涙が浮かぶ。
それを朝日さんに見せたくなくて、あたしは、布団を頭から被った。
「……美里?」
今、声を出したら――泣いているのがバレてしまう。
「……何か食べる物、作るから――それまで、寝ておけ」
あたしは、寝たふりをしたまま、彼が部屋を出て行くまでやり過ごす。
ドアが閉まる音を聞くと、泣き声が漏れないように、唇を噛みしめた。
――美里、次はちゃんと返すから。
伸びてくる手に恐怖を覚えたのは――いつからか。
二人目の彼の趣味がギャンブルだという事に、舞子は最初から嫌悪感を隠さずにいたけれど、あくまで趣味だと言い切る彼の言葉の方を信じた。
なのに。
いつの間にか、会社を辞めていて――競馬やパチンコ店に通うようになっていた時には、同棲は始まっていて。
――ねえ、ちょっとだけ、ギャンブル控えない?
――再就職してから、また、行けば良いじゃないの。
けれど、あたしの言葉が届く事は無くて――ついには、お金をせびるようになった。
――五万、次こそは勝つから。
――三万くらい出せるだろ。
――早く出せって言ってるだろうが!
身の危険を感じながらも、いずれ、わかってくれると信じて――給料をほぼ、彼に費やした。
そして、気がつけば――食べるものも無くて。
でも、彼は帰って来なくて――。
――美里、アンタ、このままじゃ死ぬわよ!
見るに見かねて、舞子が彼の元から、あたしを引きずり出すように連れ出してくれた。
その頃には、歩くのもしんどい程で。
以前よりも、十キロ近く体重が減っていた。
それは、もう、致命傷と同じ。
仕事を一週間ほど休み、舞子が作ってくれた食事を少しずつ食べ、ようやく落ち着いた時には、あたしのスマホに、おびただしい数の着信履歴が残っていた。
――すべて、元カレから。
留守電に残ったメッセージには、あたしを心配する言葉なんて、一言も無くて――ただ、金をよこせ、それだけ。
――美里ちゃん、もう、逃げた方が良いよ。……スマホも、番号も変えて。おれが手続きしてくるからさ。
秋成さんには、その時、いろんな事でお世話になった。
舞子が仕事に行く間、あたしの居場所がバレないように気を遣ってくれて、引っ越しも世話してくれたのだ。
そして、最終的には、弁護士を通して、彼に完全にあたしと切れるように要求してくれた。
寿和のように、職場に現れなかったのは――たぶん、そのせいだろう。
あの時――ほんの少しだけ、彼に気持ちが揺らいだけれど、舞子の彼氏という肩書は、あたしを留まらせた。
弱っていた時の優しさは、心の奥に刺さって、恋愛感情と錯覚する。
それに気づいていたはずの舞子は――でも、何も言わなかった。
あたしの恋愛体質の理由を知っているから……。
「ひとまず寝ておけ。明日、休んで医者に行くぞ」
「え、いえっ……大丈夫です。寝たら治りますから」
言い切るあたしに、彼は不機嫌さを隠さずに返す。
「ちゃんと治せと言っているんだがな。かかりつけの医者は、近くにあるのか?」
あたしは、視線を落とす。
「……美里?」
「……医者は……どこにも行ってません」
「は?」
言うだけ言って、あたしは布団に潜り込む。
昔から、医者にかかる機会もほとんど無かったし――就職してからは、何より、お金をかけたくなかったから会社の検診のみ。
毎月の給料は、ほとんど、元カレ達に費やして消えていったから、自分のためには使えなかったのだ。
改めて思うと――みじめだ。
そこまでしたのに、振られ続けたんだから。
思い返したら、涙が浮かぶ。
それを朝日さんに見せたくなくて、あたしは、布団を頭から被った。
「……美里?」
今、声を出したら――泣いているのがバレてしまう。
「……何か食べる物、作るから――それまで、寝ておけ」
あたしは、寝たふりをしたまま、彼が部屋を出て行くまでやり過ごす。
ドアが閉まる音を聞くと、泣き声が漏れないように、唇を噛みしめた。
――美里、次はちゃんと返すから。
伸びてくる手に恐怖を覚えたのは――いつからか。
二人目の彼の趣味がギャンブルだという事に、舞子は最初から嫌悪感を隠さずにいたけれど、あくまで趣味だと言い切る彼の言葉の方を信じた。
なのに。
いつの間にか、会社を辞めていて――競馬やパチンコ店に通うようになっていた時には、同棲は始まっていて。
――ねえ、ちょっとだけ、ギャンブル控えない?
――再就職してから、また、行けば良いじゃないの。
けれど、あたしの言葉が届く事は無くて――ついには、お金をせびるようになった。
――五万、次こそは勝つから。
――三万くらい出せるだろ。
――早く出せって言ってるだろうが!
身の危険を感じながらも、いずれ、わかってくれると信じて――給料をほぼ、彼に費やした。
そして、気がつけば――食べるものも無くて。
でも、彼は帰って来なくて――。
――美里、アンタ、このままじゃ死ぬわよ!
見るに見かねて、舞子が彼の元から、あたしを引きずり出すように連れ出してくれた。
その頃には、歩くのもしんどい程で。
以前よりも、十キロ近く体重が減っていた。
それは、もう、致命傷と同じ。
仕事を一週間ほど休み、舞子が作ってくれた食事を少しずつ食べ、ようやく落ち着いた時には、あたしのスマホに、おびただしい数の着信履歴が残っていた。
――すべて、元カレから。
留守電に残ったメッセージには、あたしを心配する言葉なんて、一言も無くて――ただ、金をよこせ、それだけ。
――美里ちゃん、もう、逃げた方が良いよ。……スマホも、番号も変えて。おれが手続きしてくるからさ。
秋成さんには、その時、いろんな事でお世話になった。
舞子が仕事に行く間、あたしの居場所がバレないように気を遣ってくれて、引っ越しも世話してくれたのだ。
そして、最終的には、弁護士を通して、彼に完全にあたしと切れるように要求してくれた。
寿和のように、職場に現れなかったのは――たぶん、そのせいだろう。
あの時――ほんの少しだけ、彼に気持ちが揺らいだけれど、舞子の彼氏という肩書は、あたしを留まらせた。
弱っていた時の優しさは、心の奥に刺さって、恋愛感情と錯覚する。
それに気づいていたはずの舞子は――でも、何も言わなかった。
あたしの恋愛体質の理由を知っているから……。