EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 次に意識が覚醒し、辺りを見回すと、あたしは朝日さんのベッドで眠ったままだったようだ。
 どこまでが夢なのか、わからない。
 けれど、部屋の明るさで、朝なのだと気がついた。
 ゆっくりと起き上がると、ベッドから下りる。
 昨日ほど、ふらついた感じはしないが、まだ、本調子には程遠い。
 けれど、仕事が止まっているんだから、行かなきゃ。
 そう思い、部屋を出ると、しん、と静かな空間だけが残っていた。

 ――……朝日さん……?

 あたしは、棚に視線を向ける。
 時刻は――既に九時を過ぎていた。

「……っ……‼」

 うそ、遅刻‼

 企画書は、今日までのはず。
 ――行かなきゃ!

 あたしは、自分の部屋に駆け込み、いつもの仕事着を選ぶと支度を済ませる。
 どうにか倍以上の時間はかかったが、マンションを出ると、駅まで早足で歩いた。
 いつもの荷物のはずなのに、バッグがヤケに重い。
 でも、そんな事を気にしている場合じゃない。
 ホームで五分ほど待つと、いつもの電車がやって来て、あたしは、急いで乗る。
 自分が急いでも、電車が早くなる訳じゃないのはわかっているけど、急がずにはいられなかった。
 そして、会社にたどり着くと、既にロビーには取引先の営業さん達が行き交い、あたしは、息をひそめてロッカールームへ急いだ。
 荷物を入れて、貴重品バッグを持つと、エレベーターに飛び込む。
 浮遊感に思わず吐き気を覚えてしまうが、大きく息を吐くと、どうにか乗り切れた。

「――……お、おはようございます……」

「白山さん、アナタ、大丈夫⁉」

 総務部の部屋のドアを、こっそりと開けて、小さな声で挨拶をすると、小坂主任が飛びつくようにやって来た。
「え、あ、ハイ。……一応、動けますので……」
 周囲の視線は、ほんの少しの心配と――大部分の野次馬だ。
 おそらく、昨日、部長があたしを連れ出した事に、尾ひれがついたような感じなんだろう。
 席に荷物を置き、まず、和田原課長に挨拶をした。
「おはようございます、遅くなりまして、申し訳ございません」
「おはよう、白山くん、大丈夫なの?」
「ご迷惑をお掛けしました」
 あたしは、そう言って、頭を下げる。
「いや、部長が、今日、キミ休みだって言ってたから、てっきりそうなんだと思ってたんだけど」
「――え」
 そう言われ、あたしは、朝日さんの席を見やる。
 空席のそこの主は、今、不在のようだ。
 すると、和田原課長があたしに言った。
「ああ、部長は今、社長に報告に行ってるから」
「――え?」
「キミの仕事の進捗。まあまあ、気にされていたから、部長が直接説明に向かったんだよ」
「……え」
 あたしは、自分の席を見る。
 ――置いていたはずのファイルが見当たらない。
 ……もしかして、持って行かれた……?
 動揺しているあたしに、和田原課長は続けた。
「一応、部長の方でも把握していたのかな?」
「――……いえ。……ただ、あたしがメモしていた、先方の企画書を入れたクリアファイルがありません」


「白山!」


 すると、後ろから、怒鳴るように呼ばれた。
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