あやかし猫社長は契約花嫁を逃さない
「しゃ、社長、落ち込まないでくださいね? これはですね、事故だと思うんですよ。私は猫チャンと寝たかった。社長もまさかこのタイミングで人間に戻るつもりはなかったと、私はそう思うんですよね、うんうん」
精一杯フォローしながらちらっと上目遣いにうかがうと、落ち込んだ顔をした猫宮と目が合う。透き通るような綺麗な目に、悲しげな色が浮かんでいた。
「その、いろいろと……、今後の補償について話し合う必要がありそうだ。弁護士を手配しよう」
「何もないですよ!? それを言ったら猫チャンを布団に引きずり込んだ私にも非があることになりますので! これはもう事故ってことで双方痛み分けです!」
「そうか。じゃあとりあえず……、寝直す」
ストレスが限界を迎えたのか、猫宮はくた、と全身を脱力させて目を瞑ってしまった。
「社長ーッ! 召されている場合ですかーっ。そこは寝ないでくださいよっ」
「寝て起きたらこう、すべてがいい感じになってるといいなって」
「超ウルトラハイパー他力本願なこと言い出した!? そんなこと言うなら私も寝ますとも!」
「そうしよう」
諦めきった猫宮に同意をされて、龍子もやけになって目を閉じた。伸ばされたままの猫宮の腕にまだ頭部が乗っていて、腕枕状態になっている、とその瞬間に気付いたがもう遅い。さりげなく距離を置くタイミングは逃してしまった後。
もはや我慢比べのような時間が一分、二分……と経過していくうちに、龍子の中ではもともとさほどなかった深刻味が溶け消えて、どうでも良くなってきた。
朝の爽やかな光の中、着心地の良いパジャマを身に着け、アンティークの天蓋付きベッドで惰眠を貪るなんてほんの三日前の自分には想像もつかない贅沢。
そして横には自社の社長が……。
「わあああああああああああ」
我慢比べ終了、敗者古河龍子。
状況の異様さに耐えきれず跳ね起きる。
さすがに本当に寝直してはいなかったのか、猫宮もそこで体を起こした。
「古河さん、肺活量すごいな」
「感心するところそこですか!? ありがとうございます!!」
闇雲に言い返しているうちに、猫宮がするりとベッドから出て行く。寝ていたときにはよくわからなかったが、存在感のある長身。
部屋の隅のコタツコーナーに目を向け、「あれは本当に呪具だな」と呟きながらドアへと向かう。
見送りがてら、龍子もその後を追った。
ドアまでたどりつき、真鍮製のドアノブに手をかけながら、猫宮が振り返る。
「朝食はどうしよう。何か食べたいものは」
「食べられるものならなんでも……、あ、もしかして私が作るんでしょうか」
「いや、いい。あるもので済ませよう」
会話しながらドアを開けたところで。
「おはようございます。お部屋にはいらっしゃらないようでしたし、スマホもつながらなかったのでどうしたのかなって思っていたんですけど……、そういうことでしたか」
にこーっと笑った犬島が立っていた。
精一杯フォローしながらちらっと上目遣いにうかがうと、落ち込んだ顔をした猫宮と目が合う。透き通るような綺麗な目に、悲しげな色が浮かんでいた。
「その、いろいろと……、今後の補償について話し合う必要がありそうだ。弁護士を手配しよう」
「何もないですよ!? それを言ったら猫チャンを布団に引きずり込んだ私にも非があることになりますので! これはもう事故ってことで双方痛み分けです!」
「そうか。じゃあとりあえず……、寝直す」
ストレスが限界を迎えたのか、猫宮はくた、と全身を脱力させて目を瞑ってしまった。
「社長ーッ! 召されている場合ですかーっ。そこは寝ないでくださいよっ」
「寝て起きたらこう、すべてがいい感じになってるといいなって」
「超ウルトラハイパー他力本願なこと言い出した!? そんなこと言うなら私も寝ますとも!」
「そうしよう」
諦めきった猫宮に同意をされて、龍子もやけになって目を閉じた。伸ばされたままの猫宮の腕にまだ頭部が乗っていて、腕枕状態になっている、とその瞬間に気付いたがもう遅い。さりげなく距離を置くタイミングは逃してしまった後。
もはや我慢比べのような時間が一分、二分……と経過していくうちに、龍子の中ではもともとさほどなかった深刻味が溶け消えて、どうでも良くなってきた。
朝の爽やかな光の中、着心地の良いパジャマを身に着け、アンティークの天蓋付きベッドで惰眠を貪るなんてほんの三日前の自分には想像もつかない贅沢。
そして横には自社の社長が……。
「わあああああああああああ」
我慢比べ終了、敗者古河龍子。
状況の異様さに耐えきれず跳ね起きる。
さすがに本当に寝直してはいなかったのか、猫宮もそこで体を起こした。
「古河さん、肺活量すごいな」
「感心するところそこですか!? ありがとうございます!!」
闇雲に言い返しているうちに、猫宮がするりとベッドから出て行く。寝ていたときにはよくわからなかったが、存在感のある長身。
部屋の隅のコタツコーナーに目を向け、「あれは本当に呪具だな」と呟きながらドアへと向かう。
見送りがてら、龍子もその後を追った。
ドアまでたどりつき、真鍮製のドアノブに手をかけながら、猫宮が振り返る。
「朝食はどうしよう。何か食べたいものは」
「食べられるものならなんでも……、あ、もしかして私が作るんでしょうか」
「いや、いい。あるもので済ませよう」
会話しながらドアを開けたところで。
「おはようございます。お部屋にはいらっしゃらないようでしたし、スマホもつながらなかったのでどうしたのかなって思っていたんですけど……、そういうことでしたか」
にこーっと笑った犬島が立っていた。