あやかし猫社長は契約花嫁を逃さない
「なぜ……、私の自宅アパートと会社がつながっているんですか?」
「逆にお聞きしますが、古河さんこそ、本当に心当たりは無いですか? たとえばそういうこと、願ったりしませんでしたか?」
「願っ」
(あーーーー! 願いましたーーーー!)
龍子の表情の変化だけで、犬島は何事か了解したようだった。さらににこっと微笑みかけられる。
その犬島の手の中で、憮然とした表情の三毛猫が言った。
「出社」
眉をしかめて、龍子は猫に言い返す。
「シンプルに次元超えを促してきますけど、お猫様はさぞかし名のある山の主なんでしょうか? なにゆえそのようにえらそうに」
「社長だ。現代日本でことさら身分差などと言うつもりはないが、会社組織は縦社会で便宜上の上下関係は存在し、命令する・従うという主従関係は存在する。俺は社内的には古河さんのめちゃくちゃ上の方の上司だ。社長だからな」
ヒュッと龍子は息を呑んだ。
(社長……、そういえばうちの会社の上層部はガチガチの親族経営で、社長なんてこの規模の会社に見合っていないやけに若いイケメンだった気がする……。けど、新入社員で平社員から始めて縁故駆使しているにしても営業成績が鬼で優秀さは折り紙付きでもはや当時の成績は伝説っていう、猫宮社長)
さーっと基本情報を頭でさらって、最後に思い出したのがその名前。
「お猫様は……、弊社の猫宮社長でいらっしゃいますか」
「そうだと言ってるが?」
「社長、猫だったんですか」
「現状、猫だ。ここまで見られた以上、古河さんには厳重な口止めが必須だ」
真面目に話そうとしているのに、猫が苦渋に満ちた顔と渋いイケメンボイスで話している姿があまりに可愛らしくて、龍子はついに噴き出してしまった。
「あっはっはっ、うちのボロアパートの押入れが社長室につながったと思ったら、社長が猫で人間の言葉しゃべってる……! どうしよう私、いつ寝たのかな。立ったまま寝てる? は~、ものすごい夢を見てしまった」
襖閉じて寝よう。
そう思って、手を伸ばしたそのとき。
犬島が、目の前で猫からぱっと手を離した。もちろんたいした高さではないし、猫ならば無事に着地するだろうと思ったが、ほとんど反射で龍子は手を伸ばしてキャッチしてしまった。
もふっ。
つやつやの毛皮に触れた瞬間、指の先でその触り心地が変化して、みるみる間に猫が人間へと姿を変えていく。
支えきれずに手を離したときには、見覚えのある長身の若社長が聳え立つがごとく龍子の視界を塞いでいた。
「猫が消えた」
うまく事情が飲み込めないでいる龍子の手首を問答無用で引っ掴むと、強く引く。
抵抗する間もなく、龍子は虹色の敷居を越えさせられていた。
「逆にお聞きしますが、古河さんこそ、本当に心当たりは無いですか? たとえばそういうこと、願ったりしませんでしたか?」
「願っ」
(あーーーー! 願いましたーーーー!)
龍子の表情の変化だけで、犬島は何事か了解したようだった。さらににこっと微笑みかけられる。
その犬島の手の中で、憮然とした表情の三毛猫が言った。
「出社」
眉をしかめて、龍子は猫に言い返す。
「シンプルに次元超えを促してきますけど、お猫様はさぞかし名のある山の主なんでしょうか? なにゆえそのようにえらそうに」
「社長だ。現代日本でことさら身分差などと言うつもりはないが、会社組織は縦社会で便宜上の上下関係は存在し、命令する・従うという主従関係は存在する。俺は社内的には古河さんのめちゃくちゃ上の方の上司だ。社長だからな」
ヒュッと龍子は息を呑んだ。
(社長……、そういえばうちの会社の上層部はガチガチの親族経営で、社長なんてこの規模の会社に見合っていないやけに若いイケメンだった気がする……。けど、新入社員で平社員から始めて縁故駆使しているにしても営業成績が鬼で優秀さは折り紙付きでもはや当時の成績は伝説っていう、猫宮社長)
さーっと基本情報を頭でさらって、最後に思い出したのがその名前。
「お猫様は……、弊社の猫宮社長でいらっしゃいますか」
「そうだと言ってるが?」
「社長、猫だったんですか」
「現状、猫だ。ここまで見られた以上、古河さんには厳重な口止めが必須だ」
真面目に話そうとしているのに、猫が苦渋に満ちた顔と渋いイケメンボイスで話している姿があまりに可愛らしくて、龍子はついに噴き出してしまった。
「あっはっはっ、うちのボロアパートの押入れが社長室につながったと思ったら、社長が猫で人間の言葉しゃべってる……! どうしよう私、いつ寝たのかな。立ったまま寝てる? は~、ものすごい夢を見てしまった」
襖閉じて寝よう。
そう思って、手を伸ばしたそのとき。
犬島が、目の前で猫からぱっと手を離した。もちろんたいした高さではないし、猫ならば無事に着地するだろうと思ったが、ほとんど反射で龍子は手を伸ばしてキャッチしてしまった。
もふっ。
つやつやの毛皮に触れた瞬間、指の先でその触り心地が変化して、みるみる間に猫が人間へと姿を変えていく。
支えきれずに手を離したときには、見覚えのある長身の若社長が聳え立つがごとく龍子の視界を塞いでいた。
「猫が消えた」
うまく事情が飲み込めないでいる龍子の手首を問答無用で引っ掴むと、強く引く。
抵抗する間もなく、龍子は虹色の敷居を越えさせられていた。