あやかし猫社長は契約花嫁を逃さない
ぱち、と目を覚まして、龍子はベッドの上で跳ね起きた。
「あっれ~~? いつ戻ってきたっけ? おかしいな」
窓の外を見るとすでに真っ暗で、時間は経過しているようだ。いま何時だろう、と辺りを見回したものの、スマホが見当たらない。入れていたはずのバッグも無いので、どこかに置いてきてしまったらしい。
(なんだっけ……、屋敷に帰ってきて、猫に話しかけられた覚えはあるんだけど……。猫に連れられて不思議の国へ。そして麻薬に手を出した。やばい、子どもに聞かせられない童話になる)
頭を振って辺りを見回す。
ふと、部屋の隅のこたつ布団に何か見覚えのあるものを見つけた。
くた、と倒れ込んでいる三毛猫。猫好きなわりに猫に疎い龍子には、それがあのときの三毛猫か、それとも猫宮か判別がつかない。
ベッドから起き上がって、近寄ってみる。
「あの~、どちらの猫さんでいらっしゃいますでしょうか」
「にゃぁ……」(俺だよ)
「ああ、社長でしたか。今晩もコタツで寝たくなったんですか。でもだめですよ、コタツは。ちゃんとおふとんで寝ましょう」
声をかけてみるも、様子がおかしい。
一向に起き上がる気配がない。龍子がしゃがみこんで、ためしにつついてみると、こてんと転がって、上目遣いに見てきた。
「ど、どうしたんですか? そんな目で見られたら社長だってわかっていてもときめくじゃないですか」
「にゃあ」(酔った)
「猫はお酒飲んじゃだめですよ。あ、ああ、もしかして!? またたび? あのまたたびおかしいですよ、ふつう人間には効かないはずなのに、私もイチコロだったんですから。呪具ですか?」
「にゃ」(知らん。酔った)
言うなり、猫宮は力が抜けたようにぱた、と頭を落とす。
「社長! しっかりしてください!! どうしよう。あの三毛猫さんはすごい酔い方だったけど、やっぱり猫だから? 人間に戻せばそこまででも無いかな……?」
今のところ龍子の体には、眠くなってしまったことをのぞけば、悪影響はなかったようだ。しかし猫は?
スマホがあれば、またたびの猫への後遺症云々調べられたのかもしれないが、手元にない。
三毛猫の猫宮は、とても具合が悪そうに見えて、龍子はいても立ってもいられない気分になってきた。
(社長が酔ってしまったのは、私がまたたび持っていたせいだよね。悪いことしたな~)
自分のせいだ、と後悔しながら猫宮を両手で抱き上げる。
「んにゃ?」(なんだ?)
とろんとした目で見返されながら、龍子は目を瞑ってその口元に唇を寄せた。
(人間に戻ってください!!)
チュ、と本当に触れるか触れないかのわずかな接触で、猫宮の体には変化があった。
腕にかかる重みがまたたく間に猫から人間へ。あまりの速さに追いつかず、龍子は抱えたまま押し倒された形になる。
「社長っ! 重いです! つぶしてますよ!?」
人間形態では、体格差がありすぎる。とっさにその下から這い出すこともできずに、龍子は騒ぎながら腕や背中をぺしぺしとはたいた。
「ん……。ん?」
一瞬だけ、猫宮は顔を上げて、龍子を見下ろした。
意識不明瞭なせいもあってか、壮絶な色香を漂わせたその美貌に、龍子は思わず見入ってしまう。
なぜか、にこりと微笑まれた。
目にするだけで心臓が痛くなるほどの、淡く優しい笑み。
猫宮といえば、意識を取り戻したのはそのときだけ。
あとは、龍子に全体重を預けて乗り上げたまま、スヤ……と寝息をたてはじめてしまった。
幸いにして、場所はコタツ布団近辺で、龍子の背には布団があったが、そういう問題ではない。
「起きて下さい、社長、起きてください……!」
体の下からなんとか這いずり出でようともがきながら、龍子は喚く羽目になった。
「あっれ~~? いつ戻ってきたっけ? おかしいな」
窓の外を見るとすでに真っ暗で、時間は経過しているようだ。いま何時だろう、と辺りを見回したものの、スマホが見当たらない。入れていたはずのバッグも無いので、どこかに置いてきてしまったらしい。
(なんだっけ……、屋敷に帰ってきて、猫に話しかけられた覚えはあるんだけど……。猫に連れられて不思議の国へ。そして麻薬に手を出した。やばい、子どもに聞かせられない童話になる)
頭を振って辺りを見回す。
ふと、部屋の隅のこたつ布団に何か見覚えのあるものを見つけた。
くた、と倒れ込んでいる三毛猫。猫好きなわりに猫に疎い龍子には、それがあのときの三毛猫か、それとも猫宮か判別がつかない。
ベッドから起き上がって、近寄ってみる。
「あの~、どちらの猫さんでいらっしゃいますでしょうか」
「にゃぁ……」(俺だよ)
「ああ、社長でしたか。今晩もコタツで寝たくなったんですか。でもだめですよ、コタツは。ちゃんとおふとんで寝ましょう」
声をかけてみるも、様子がおかしい。
一向に起き上がる気配がない。龍子がしゃがみこんで、ためしにつついてみると、こてんと転がって、上目遣いに見てきた。
「ど、どうしたんですか? そんな目で見られたら社長だってわかっていてもときめくじゃないですか」
「にゃあ」(酔った)
「猫はお酒飲んじゃだめですよ。あ、ああ、もしかして!? またたび? あのまたたびおかしいですよ、ふつう人間には効かないはずなのに、私もイチコロだったんですから。呪具ですか?」
「にゃ」(知らん。酔った)
言うなり、猫宮は力が抜けたようにぱた、と頭を落とす。
「社長! しっかりしてください!! どうしよう。あの三毛猫さんはすごい酔い方だったけど、やっぱり猫だから? 人間に戻せばそこまででも無いかな……?」
今のところ龍子の体には、眠くなってしまったことをのぞけば、悪影響はなかったようだ。しかし猫は?
スマホがあれば、またたびの猫への後遺症云々調べられたのかもしれないが、手元にない。
三毛猫の猫宮は、とても具合が悪そうに見えて、龍子はいても立ってもいられない気分になってきた。
(社長が酔ってしまったのは、私がまたたび持っていたせいだよね。悪いことしたな~)
自分のせいだ、と後悔しながら猫宮を両手で抱き上げる。
「んにゃ?」(なんだ?)
とろんとした目で見返されながら、龍子は目を瞑ってその口元に唇を寄せた。
(人間に戻ってください!!)
チュ、と本当に触れるか触れないかのわずかな接触で、猫宮の体には変化があった。
腕にかかる重みがまたたく間に猫から人間へ。あまりの速さに追いつかず、龍子は抱えたまま押し倒された形になる。
「社長っ! 重いです! つぶしてますよ!?」
人間形態では、体格差がありすぎる。とっさにその下から這い出すこともできずに、龍子は騒ぎながら腕や背中をぺしぺしとはたいた。
「ん……。ん?」
一瞬だけ、猫宮は顔を上げて、龍子を見下ろした。
意識不明瞭なせいもあってか、壮絶な色香を漂わせたその美貌に、龍子は思わず見入ってしまう。
なぜか、にこりと微笑まれた。
目にするだけで心臓が痛くなるほどの、淡く優しい笑み。
猫宮といえば、意識を取り戻したのはそのときだけ。
あとは、龍子に全体重を預けて乗り上げたまま、スヤ……と寝息をたてはじめてしまった。
幸いにして、場所はコタツ布団近辺で、龍子の背には布団があったが、そういう問題ではない。
「起きて下さい、社長、起きてください……!」
体の下からなんとか這いずり出でようともがきながら、龍子は喚く羽目になった。