あやかし猫社長は契約花嫁を逃さない
急な帰省ということもあり、龍子の両親は午前中に用事が入っていたとのこと。午後に実家訪問の予定で、午前中はひとまずフリー。
「先に函館山の麓の屋敷を確認してくるか。売りに出ていないことまではわかっているが、現状が気になる」
「そうですね。立ち入りしないで外から確認するくらいなら」
猫宮は、函館に来るに当たり、龍子が買い戻そうとしている祖父母の屋敷の存在をずいぶん気にかけていた。
地元の不動産会社に問い合わせてはみたものの、売りに出ている形跡なし。龍子の実家に「元の持ち主の縁者として確認したいことがあるから」と売り主の連絡先を聞いたが、電話の呼び出し音は鳴るもののつながっていない。
結局、連絡がつかないまま函館まで来ることになった。
龍子の両親も売り主に関して詳しい情報は知らないようで、場合によっては直接住所を訪ねるつもりでいる。
少なくとも、猫宮はそこまでするつもりのようだ。
(いずれ自分で、そうしようとは思っていたけど……。うちの親が売ったときの値段も聞いているから、そのくらいお金が貯まってから)
お金を用意できる目処のない段階で接触し、下手に足元を見られて値段を釣り上げられても、という懸念があったのだ。不動産屋などの仲介が入ればまた違うが、少なくとも今現在は売りに出していない以上、手放す気はないのかもしれない。そこに頼み込むとあれば、ふっかけられるおそれは十分にある。すべては相手次第であるが。
もともと現場の叩き上げでもある猫宮は、その辺の交渉において自信はあるだろう。資産的にも問題ないはず。運用するという建前で、個人で買い上げるのではなく会社預かりとすることもできるのかもしれない。
龍子としては、みすみすそれを容認して良いのか、という迷いはあった。
(今回は調査の名目で立ち入りの許可だけをもらって……。できれば買い戻すのは私が自分でしたい。社長の出方を見て、そこは口出しするか決めよう)
龍子が屋敷を買い戻したいのはひとえに、「祖父母の思い出が~」という、いわばセンチメンタルな理由が大半を占めている。だが、猫宮の場合は「猫化の抑止や解呪につながる、なんらかの情報が欲しい」という切実な理由があるのだ。ここまで来てしまった以上、いくら元の所有者と縁続きの龍子でも、おいそれと邪魔できない。
「そういえば、古河さんは用事以外でどこか、行きたいところはあるのか? さしあたり、函館山に向かう途中で寄りたいところや食べたいものがあるなら、言ってくれれば」
猫宮に声をかけられた瞬間、それまでの悩みが一気に吹き飛んだ。
龍子は目を輝かせて、「ぜひご案内させてください!」と前のめりに運転席の方まで身を乗り出してしまい、猫宮に「事故るからやめるように。危ない」と冷たく注意をされることとなった。
「先に函館山の麓の屋敷を確認してくるか。売りに出ていないことまではわかっているが、現状が気になる」
「そうですね。立ち入りしないで外から確認するくらいなら」
猫宮は、函館に来るに当たり、龍子が買い戻そうとしている祖父母の屋敷の存在をずいぶん気にかけていた。
地元の不動産会社に問い合わせてはみたものの、売りに出ている形跡なし。龍子の実家に「元の持ち主の縁者として確認したいことがあるから」と売り主の連絡先を聞いたが、電話の呼び出し音は鳴るもののつながっていない。
結局、連絡がつかないまま函館まで来ることになった。
龍子の両親も売り主に関して詳しい情報は知らないようで、場合によっては直接住所を訪ねるつもりでいる。
少なくとも、猫宮はそこまでするつもりのようだ。
(いずれ自分で、そうしようとは思っていたけど……。うちの親が売ったときの値段も聞いているから、そのくらいお金が貯まってから)
お金を用意できる目処のない段階で接触し、下手に足元を見られて値段を釣り上げられても、という懸念があったのだ。不動産屋などの仲介が入ればまた違うが、少なくとも今現在は売りに出していない以上、手放す気はないのかもしれない。そこに頼み込むとあれば、ふっかけられるおそれは十分にある。すべては相手次第であるが。
もともと現場の叩き上げでもある猫宮は、その辺の交渉において自信はあるだろう。資産的にも問題ないはず。運用するという建前で、個人で買い上げるのではなく会社預かりとすることもできるのかもしれない。
龍子としては、みすみすそれを容認して良いのか、という迷いはあった。
(今回は調査の名目で立ち入りの許可だけをもらって……。できれば買い戻すのは私が自分でしたい。社長の出方を見て、そこは口出しするか決めよう)
龍子が屋敷を買い戻したいのはひとえに、「祖父母の思い出が~」という、いわばセンチメンタルな理由が大半を占めている。だが、猫宮の場合は「猫化の抑止や解呪につながる、なんらかの情報が欲しい」という切実な理由があるのだ。ここまで来てしまった以上、いくら元の所有者と縁続きの龍子でも、おいそれと邪魔できない。
「そういえば、古河さんは用事以外でどこか、行きたいところはあるのか? さしあたり、函館山に向かう途中で寄りたいところや食べたいものがあるなら、言ってくれれば」
猫宮に声をかけられた瞬間、それまでの悩みが一気に吹き飛んだ。
龍子は目を輝かせて、「ぜひご案内させてください!」と前のめりに運転席の方まで身を乗り出してしまい、猫宮に「事故るからやめるように。危ない」と冷たく注意をされることとなった。