あやかし猫社長は契約花嫁を逃さない
(なんということでしょう、猫チャン……!)
綺羅びやかな照明の下、毛並みの良い猫が現れていて、目が合った。
離れた位置にいる店員が、今にも振り返りそうになっている。
「社長、こちらへ」
龍子はとっさに両腕を開いて猫を招き、了解したように三毛猫はジャンプして、龍子の腕の中へと飛び込んだ。
間一髪。そこで、シャッとカーテンを閉めて立てこもる。
三毛猫をぎゅうぎゅう抱きしめながら、龍子は大きく息をついた。
激しい動きに、髪がわずかに乱れる。
猫も、胸の位置でほーっと息を吐きだしていた。
「久々に危なかったな……。古河さんと会う前はよくあったんだが。最近大丈夫かと思っていたんだが、やはりこれでは離れられないな」
「そうですね……。大切な取引先のお嬢様のパーティーで、社長が猫になるわけには……」
これは龍子も覚悟を決めて、パーティーに出席しなければならないようだ。
意気込む龍子に、腕の中の猫がキリッとキメ顔で言う。
「キス良いか?」
「そうでしたそうでした。はい――」
猫が伸び上がって、軽く俯いた龍子の唇にキスをする。
そこには瞬く間に、さきほどと変わらぬスーツ姿の猫宮が。
普段の龍子には縁のない高級店、試着室もそれなりの広さであったが、近距離で向き合うとさすがに照れくさい。
猫宮もそれは気付いているようで、カーテンに手をかけて「外で待ってる」と言った。そのまま出て行こうとして、動きを止める。
目の前には、犬島と女性店員。
試着室の中には髪を乱した龍子。そこから出てきた猫宮。
一瞬の沈黙を果敢に打ち破ったのは女性店員で、「そのドレスもとてもお似合いで、お可愛らしいですね~!」と龍子をほめちぎり、場を盛り上げ始めた。
犬島はにこにこと笑いながら「これはもう、猫まっしぐらですね」と言う。
(絶対わかってるくせに~~! それはフォローじゃないと思うのですが!)
この状況、ひとに目撃されるにはなかなかにまずい。
焦る龍子は助けを求めるように猫宮を見たが、泰然としたもので、何食わぬ調子でしれっと言っていた。
「いま着ているのも包んでおいてほしい。在庫はあたらなくて良い。猫の毛がついているかもしれないから、現物を買う」
「猫宮社長ってば、あら~」
(事実しか言ってないのに、店員さんの誤解が深まっていますが!?)
迂闊に口出しができないまま、龍子はすごすごと試着室の中へと戻っていった。
いたたまれなさが、過去最高。鏡を見ると、真っ赤になった自分が見返してきていて、耐えきれずに目をそらした。
結局、一回のパーティー用には明らかに多い枚数のドレスを買い込み、帰宅。
就寝時間帯になっても人間だった猫宮は「今日は出先で猫になったせいかな。なんだか一晩、大丈夫そうな気がしてきた」とうそぶいていたが、むしろ龍子が必死の形相になって主張してしまった。
「悪霊!」
「わかった。じゃあ一緒に寝よう」
かくしていつも通りの夜を過ごし、翌日。
パーティーの日を迎えた。
綺羅びやかな照明の下、毛並みの良い猫が現れていて、目が合った。
離れた位置にいる店員が、今にも振り返りそうになっている。
「社長、こちらへ」
龍子はとっさに両腕を開いて猫を招き、了解したように三毛猫はジャンプして、龍子の腕の中へと飛び込んだ。
間一髪。そこで、シャッとカーテンを閉めて立てこもる。
三毛猫をぎゅうぎゅう抱きしめながら、龍子は大きく息をついた。
激しい動きに、髪がわずかに乱れる。
猫も、胸の位置でほーっと息を吐きだしていた。
「久々に危なかったな……。古河さんと会う前はよくあったんだが。最近大丈夫かと思っていたんだが、やはりこれでは離れられないな」
「そうですね……。大切な取引先のお嬢様のパーティーで、社長が猫になるわけには……」
これは龍子も覚悟を決めて、パーティーに出席しなければならないようだ。
意気込む龍子に、腕の中の猫がキリッとキメ顔で言う。
「キス良いか?」
「そうでしたそうでした。はい――」
猫が伸び上がって、軽く俯いた龍子の唇にキスをする。
そこには瞬く間に、さきほどと変わらぬスーツ姿の猫宮が。
普段の龍子には縁のない高級店、試着室もそれなりの広さであったが、近距離で向き合うとさすがに照れくさい。
猫宮もそれは気付いているようで、カーテンに手をかけて「外で待ってる」と言った。そのまま出て行こうとして、動きを止める。
目の前には、犬島と女性店員。
試着室の中には髪を乱した龍子。そこから出てきた猫宮。
一瞬の沈黙を果敢に打ち破ったのは女性店員で、「そのドレスもとてもお似合いで、お可愛らしいですね~!」と龍子をほめちぎり、場を盛り上げ始めた。
犬島はにこにこと笑いながら「これはもう、猫まっしぐらですね」と言う。
(絶対わかってるくせに~~! それはフォローじゃないと思うのですが!)
この状況、ひとに目撃されるにはなかなかにまずい。
焦る龍子は助けを求めるように猫宮を見たが、泰然としたもので、何食わぬ調子でしれっと言っていた。
「いま着ているのも包んでおいてほしい。在庫はあたらなくて良い。猫の毛がついているかもしれないから、現物を買う」
「猫宮社長ってば、あら~」
(事実しか言ってないのに、店員さんの誤解が深まっていますが!?)
迂闊に口出しができないまま、龍子はすごすごと試着室の中へと戻っていった。
いたたまれなさが、過去最高。鏡を見ると、真っ赤になった自分が見返してきていて、耐えきれずに目をそらした。
結局、一回のパーティー用には明らかに多い枚数のドレスを買い込み、帰宅。
就寝時間帯になっても人間だった猫宮は「今日は出先で猫になったせいかな。なんだか一晩、大丈夫そうな気がしてきた」とうそぶいていたが、むしろ龍子が必死の形相になって主張してしまった。
「悪霊!」
「わかった。じゃあ一緒に寝よう」
かくしていつも通りの夜を過ごし、翌日。
パーティーの日を迎えた。