婚約者様、ごきげんよう。浮気相手との結婚を心より祝福します
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 第二王子であるアレックスがエレトーンと出会ったのは、ふたりがまだ幼き時。
 記憶が確かなら、エレトーンは十歳、アレックスは七歳だった。
 その頃のアレックスは、目立たずヒッソリと、日々怯えた生活を送っていた。
 父である国王は、王太子になる兄アラートと自分を、分け隔てなく育ててくれた。それがありがたい一方で、弊害が起きていたのである。
 王太子の選定も一応は兄を優先としていたが、弟である自分の方がより素質があるならそちらにすると、国王は一部の貴族に公言していたせいだ。
 王は仕事となると機微に聡いが、私事となるとものすごく疎い。
 そのため、アラートの母であり第一王妃のミリーナが、我が子のためならばなんでもする人物だと知らない。そう、文字通り〝なんでも〟だ。
 国王が知らなくても、聡いアレックスは彼女がそういう人だとよく知っている。
 そのため、アレックスは変に兄より目立てば、ミリーナに命を狙われると悟っていた。
 第二王妃であるアレックスの母スザンヌは、権力争いには興味がない。平穏であるなら、誰が王位に就こうと構わないと思っている。
 なので、自分の息子でなく第一王子であるアラートがなればいいと公言していた。だが、空気を読むのが貴族というもの。スザンヌは息子に王位をと願っているのだが、ミリーナの手前、公言できないのだと周囲は勝手に忖度する。
 スザンヌの方が生家の爵位も侯爵と高く、男爵令嬢だったミリーナより遥かに後ろ盾が強い。これが当時、逆かハウルベッグ侯爵が後ろ楯についていたのなら、周囲を黙らせることもできたが、残念ながら現実は厳しい。
 寵愛だけで登り詰めたミリーナは、結婚後も身を飾ることや磨くことには時間をいくらでも費やすが、公務や政務は一切しない。そのため、スザンヌがすべて任されていた。
 それでも少しはやる気を見せればいいものの、ミリーナはスザンヌを仕事しか取り柄のない妃だと、バカにするだけでなにもしない。それにより、スザンヌ派は怒りをため込んでいったのだ。
 そこへ、王の分け隔てない子育て……である。
 一見すればいい王、いい父だが王位継承まで分け隔てなくとなれば、話は違う。おかげで、元より派閥がある貴族たちの溝は深くなるばかりである。
 しかも、特段アラート王子に秀でたところがないとなれば、アレックス王子は兄を押し退け王になれる可能性が高くなり、存在しているだけでミリーナに忌み嫌われるのであった。
 そんな苛烈な義理の母を見ていたアレックスは、人の顔色を読んでビクビクするような子供になっていたのだった。
 兄と変わらぬ家庭教師がつくことになったが、アレックスはサボりがちになり、フラフラとしていた。
 万が一、兄より勉強ができて目立ってしまったら、ミリーナに消されると思っていたからである。

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