婚約者様、ごきげんよう。浮気相手との結婚を心より祝福します
「殿下はなにを?」
「……散歩?」
まさか、勉強をしたくないので抜け出した……とは言えなかった。
だがそんなことなど、賢いエレトーンにはお見通しだった。
「勉強嫌いなんですか? するしないは自由だけど、後々後悔しますよ?」
そう言って小首を傾げたエレトーン。
多分、エレトーンの言っていることは正しい。だが、自分の事情を知りもしないで、した方がいいと暗に言うエレトーンにカチンときた。
アレックスもそんなことはわかっている。だが、できると知られて殺されるのは真っ平だ。なら、自分はバカでいい。
「なにも知らないくせに」
「そうね。だけど、勉強をサボる理由なんて知りたくもないわ」
不機嫌そうに言ったアレックスから一気に興味が薄れたのか、エレトーンは噴水の縁に座り直すと、先ほど読んでいた本に目線を戻した。
大した理由もなく勉強をサボっているのだと勝手に判断したエレトーンには、アレックスはもはやどうでもよくなったのだろう。敬意さえ表さないほどに。
――パシッ。
そのあからさまな態度にアレックスは、思わず手が出てしまった。
「なにするのよ!?」
突然、持っていた本を叩かれて地面に落とされたエレトーンは、アレックスを睨む。
「僕のことをなにも知らないくせに、勝手なことを言うなよ!!」
「なら、勉強をサボる正当な理由はなによ?」
護衛に守られ、命の危機さえ感じたこともなく、ぬくぬくと大事に育てられているエレトーンに、自分の気持ちなどわからないと、アレックスは強い憤りを感じた。
「もし兄上より勉強ができたら、義母上に殺されるからだよ!!」
言うつもりはなかったのに、アレックスは感情に任せて思わず口に出してしまった。
護衛に守られて吞気にしているエレトーンが、たまらなくムカつくし羨ましかったからだ。こんなのただの八つ当たり。だが、そんなことにも気付かないまま、エレトーンに当たっていた。
これで少しは、自分の気持ちや立場を理解してくれるだろうと、アレックスは怒りを収めようとしたが……エレトーンが返してきた言葉に絶句した。
「バカじゃないの?」
そう聞こえた気がしたからだ。
「……は?」
「バカじゃないの?」
気のせいじゃなかった。
思わず聞き返す形になると、エレトーンの先ほどまでのおとなしい姿は鳴りを潜め、アレックスをバカにするようにもう一度言ったのだ。
「なっ!?」
その顔で完全に気のせいじゃないとわかったアレックスは、一度収まりかけた怒りがフツフツと戻ってきた。
面と向かってバカだと言われたのは初めてだった。自分の身になにか起きるくらいなら、バカだと思われた方がいいと思っていたが、人に言われると無性に腹が立つ。
「君は――」
なにも知らないからそんなことを言えるんだ。
そう改めて口にしようとしたら、エレトーンの力強い瞳がアレックスを捉えた。
「殺される時は、なにをしたって殺されるのよ」
アレックスがその瞳に囚われていると、エレトーンは子供らしくない笑みを浮かべた。
その笑みにアレックスはなぜかゾクリとした。それは、幼いアレックスをも惹きつけるような蠱惑的な笑みだった。
「バカならその分、早まるだけ」
「……散歩?」
まさか、勉強をしたくないので抜け出した……とは言えなかった。
だがそんなことなど、賢いエレトーンにはお見通しだった。
「勉強嫌いなんですか? するしないは自由だけど、後々後悔しますよ?」
そう言って小首を傾げたエレトーン。
多分、エレトーンの言っていることは正しい。だが、自分の事情を知りもしないで、した方がいいと暗に言うエレトーンにカチンときた。
アレックスもそんなことはわかっている。だが、できると知られて殺されるのは真っ平だ。なら、自分はバカでいい。
「なにも知らないくせに」
「そうね。だけど、勉強をサボる理由なんて知りたくもないわ」
不機嫌そうに言ったアレックスから一気に興味が薄れたのか、エレトーンは噴水の縁に座り直すと、先ほど読んでいた本に目線を戻した。
大した理由もなく勉強をサボっているのだと勝手に判断したエレトーンには、アレックスはもはやどうでもよくなったのだろう。敬意さえ表さないほどに。
――パシッ。
そのあからさまな態度にアレックスは、思わず手が出てしまった。
「なにするのよ!?」
突然、持っていた本を叩かれて地面に落とされたエレトーンは、アレックスを睨む。
「僕のことをなにも知らないくせに、勝手なことを言うなよ!!」
「なら、勉強をサボる正当な理由はなによ?」
護衛に守られ、命の危機さえ感じたこともなく、ぬくぬくと大事に育てられているエレトーンに、自分の気持ちなどわからないと、アレックスは強い憤りを感じた。
「もし兄上より勉強ができたら、義母上に殺されるからだよ!!」
言うつもりはなかったのに、アレックスは感情に任せて思わず口に出してしまった。
護衛に守られて吞気にしているエレトーンが、たまらなくムカつくし羨ましかったからだ。こんなのただの八つ当たり。だが、そんなことにも気付かないまま、エレトーンに当たっていた。
これで少しは、自分の気持ちや立場を理解してくれるだろうと、アレックスは怒りを収めようとしたが……エレトーンが返してきた言葉に絶句した。
「バカじゃないの?」
そう聞こえた気がしたからだ。
「……は?」
「バカじゃないの?」
気のせいじゃなかった。
思わず聞き返す形になると、エレトーンの先ほどまでのおとなしい姿は鳴りを潜め、アレックスをバカにするようにもう一度言ったのだ。
「なっ!?」
その顔で完全に気のせいじゃないとわかったアレックスは、一度収まりかけた怒りがフツフツと戻ってきた。
面と向かってバカだと言われたのは初めてだった。自分の身になにか起きるくらいなら、バカだと思われた方がいいと思っていたが、人に言われると無性に腹が立つ。
「君は――」
なにも知らないからそんなことを言えるんだ。
そう改めて口にしようとしたら、エレトーンの力強い瞳がアレックスを捉えた。
「殺される時は、なにをしたって殺されるのよ」
アレックスがその瞳に囚われていると、エレトーンは子供らしくない笑みを浮かべた。
その笑みにアレックスはなぜかゾクリとした。それは、幼いアレックスをも惹きつけるような蠱惑的な笑みだった。
「バカならその分、早まるだけ」