婚約者様、ごきげんよう。浮気相手との結婚を心より祝福します
「私は婚約を解消してほしくないです」
「「私も!!」」

 不条理な自分の境遇を憂いつつ、マイラインと今後のことを算段しようとしていたら、生徒会員たちが切実に訴えてきたのだ。

「あらなぜ?」
「「「あの女が王妃になるなんて、絶対に嫌だからです!!」」」
「……ぷっ」

 ここは噓でも、「王妃になるのはエレトーン様以外に考えられません!」と言って、持ち上げるところではないだろうか?
 正直すぎる言い方に、エレトーンは思わず笑ってしまった。

「なにがおかしいんですか!? 私たちは本気で――」
「ごめんなさい、つい……ね?」

 本気で言ったのにと、少し不服そうにクラスメイトたちにエレトーンは謝った。
 彼女たちの言いたいことはわかる。
 だが、王太子の選んだ女性が王妃になれるわけじゃない。王太子に恋愛をするなとは言わないが、相手にも最低限の教養や身分、良識が必要なのである。
 身分は、高位貴族へ養子に出せばどうにかなる。教養は……専属の家庭教師をつけるなどすれば、ある程度はカバーできるだろう。
 しかし、問題は、場の空気を読める資質や良識である。
 それだけはどうこうできるものではない。エレトーンが辞退したとしても、次の候補者はいるので、カリンがすぐ婚約できるわけではないのである。

「あなたたちの熱意は伝わったわ。私もおとなしくしているつもりはないわよ。でも、もしなにかあったら……」
「「「もちろん、力になります!!」」」

 しおらしくして、語尾を濁したら、生徒会員たちは力強い返事をくれた。
 彼女たちの言質はとりあえず取った。あとは、なにかあった時にそれとなく言えば忖度してくれるだろう。
 そう感じていたら、ひとりがエレトーンの手を握り、さらに力強く言ってくれたのだ。

「私の家が傾きかけた時、手を差し伸べてくれたのはエレトーン様だけでした」

 その令嬢の行動がきっかけとなり、他の生徒会員たちから次々と声があがった。

「親から、意に添わぬ結婚をさせられそうになった時に、声をかけていただいた恩は一生忘れません!」
「エレトーン様がお声をかけてくれるまで、高位貴族の方に虐められていて、学園が嫌でした」
「今度は私たちが助ける番ですわ!!」

 いつも強気なエレトーンが、ちょっとしおらしくしたらこの通りである。「ありがとう」とお礼を言うエレトーンと、それを囲む生徒会員たち。
 その様子を見ていたマイラインは、ため息をついた。
 少しキツい印象を与えるエレトーンだが、周りの高位貴族とは違って身分に関係なく接し、面倒見がいい。たとえ相手が体格のいい男子や先生でも決して怯まず、弱い立場の者に寄り添う姿を度々見せていた。
 現にマイライン自身も、こうやってエレトーンに陥落させられたひとりである。だが、その光景を客観的に見ると、なんとも言えない気分だ。
 エレトーンがこうやって次々と仲間を誑していく姿を、マイラインは感心半分、恐ろしさ半分で見ていたのであった。

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