婚約者様、ごきげんよう。浮気相手との結婚を心より祝福します
「アレックス殿下! いらっしゃっていたのですか」
アラートの異母弟、第二王子であるアレックスが目の前にいたのだ。
アレックスはアラートとふたつほど離れていて、名目上この学園の一年生だが、ほとんど登校していない。
そのせいで、一部の者たちは病弱と思っているようだが――事実はまったく異なる。
療養で引きこもっていたとされる数年の間に、ひっそりと隣国の学園に通っていて、飛び級制度を利用して既に卒業しているのだそうだ。この学園は、ただ交流の場として利用しているだけらしい。
アラートのスペアとして、王太子教育もあったそうだが、早々に会得して、もう公務の一部を任されている……と父から聞いたことがある。
そんな父曰く、彼が学園に来るのは、人脈作りと未来の高官探しだろうとのこと。
ただ、せっかく来ても、自由と平等をはき違えた者たちに馴れ馴れしくされるのが嫌みたいで、休み時間は大抵、教室から消えているようだ。
あとは、単純に学園生活が単調でつまらないらしく、刺激を求めて街に出ているそうだ。
ちなみに、そのことを知っているのは、わずかな者たちだけである。大半の者は、アレックスがただ単に病弱か怠慢なのだと、思っている。
アレックスを見くびると痛い目に遭うのだが、知らないのはある意味幸せなことである。
そんなアレックスが学園に来るなど、珍しいことだ。
「エレトーンは見るたびに綺麗になっているね」
自分の話などどうでもいいとばかりに、エレトーンの顔をニコニコと眺めていた。
「なんでそんな顔をするのかな?」
褒めたつもりなのに、エレトーンは不審そうに眉根をピクリと動かしたのだ。
アレックスはそんな彼女を見て苦笑いが漏れた。
アレックスが褒めれば頬を赤らめる女性は多くいるが、不審そうな顔を見せるのはエレトーンだけである。自分に靡く素振りすらないエレトーンに、アレックスはため息が漏れた。
「アレックス殿下こそ、しばらくの間に身長も高くなって、大人っぽくなりましたね」
アレックスとは、アラートと交流を始めた頃から会う機会は増えたけど……最後に会ったのは数年前だろうか? 確かその時は、エレトーンと変わらぬ背格好だったはず。なのに、今は頭ひとつほどの差があるから驚きだ。
しかも、ほっそりしていた体躯が成長と共に逞しくなっただけでなく、声変わりまでしたのか声が低くなっている。しかも、その声が妙に耳に心地いいから、エレトーンは胸がそわそわしていた。
正直なところ弟のように思っていたアレックスの成長に、少々困惑している。成長を喜んでいる半面、男らしくなり、接し方がわからない。
「惚れ直した?」
「私が惚れていた前提で話すのは、いかがなものかと……」
「では、惚れた?」
「いえ、別に?」
エレトーンが表情を変えずにシレッと返せば、アレックスは肩を落とした。
「……ちょっとくらい」
「え?」
アレックスがなにやら小さく呟いた気がしてエレトーンは聞き返したが、彼は肩を竦めるだけだった。
「これからは、学園に通われるのですか?」
「しばらくは」
しばらくとはどのくらいかエレトーンにはわからないが、飽きるまでは通うのだろう。
「で、どこまでついてくるのですか?」
エレトーンは軽く挨拶をして教室に向かおうとしていたのだが、なぜかアレックスが子ガモのようについてくる。
嫌いではないだけに邪険に扱えないのが悩ましい。
「久々に会ったのだから、少し話でも」
「誤解されるといけませんので……」
いずれは義弟になる人であるが、ふたりきりなのを見られ、周りに変に勘繰られては困る。
エレトーンがそう思って言ったら、アレックスはチラリと柱の陰を見た。
「気付いておりましたの?」
ホホッと口元を隠しながら、マイラインが柱の陰から出てきたので、エレトーンは驚きを隠せない。
アラートの異母弟、第二王子であるアレックスが目の前にいたのだ。
アレックスはアラートとふたつほど離れていて、名目上この学園の一年生だが、ほとんど登校していない。
そのせいで、一部の者たちは病弱と思っているようだが――事実はまったく異なる。
療養で引きこもっていたとされる数年の間に、ひっそりと隣国の学園に通っていて、飛び級制度を利用して既に卒業しているのだそうだ。この学園は、ただ交流の場として利用しているだけらしい。
アラートのスペアとして、王太子教育もあったそうだが、早々に会得して、もう公務の一部を任されている……と父から聞いたことがある。
そんな父曰く、彼が学園に来るのは、人脈作りと未来の高官探しだろうとのこと。
ただ、せっかく来ても、自由と平等をはき違えた者たちに馴れ馴れしくされるのが嫌みたいで、休み時間は大抵、教室から消えているようだ。
あとは、単純に学園生活が単調でつまらないらしく、刺激を求めて街に出ているそうだ。
ちなみに、そのことを知っているのは、わずかな者たちだけである。大半の者は、アレックスがただ単に病弱か怠慢なのだと、思っている。
アレックスを見くびると痛い目に遭うのだが、知らないのはある意味幸せなことである。
そんなアレックスが学園に来るなど、珍しいことだ。
「エレトーンは見るたびに綺麗になっているね」
自分の話などどうでもいいとばかりに、エレトーンの顔をニコニコと眺めていた。
「なんでそんな顔をするのかな?」
褒めたつもりなのに、エレトーンは不審そうに眉根をピクリと動かしたのだ。
アレックスはそんな彼女を見て苦笑いが漏れた。
アレックスが褒めれば頬を赤らめる女性は多くいるが、不審そうな顔を見せるのはエレトーンだけである。自分に靡く素振りすらないエレトーンに、アレックスはため息が漏れた。
「アレックス殿下こそ、しばらくの間に身長も高くなって、大人っぽくなりましたね」
アレックスとは、アラートと交流を始めた頃から会う機会は増えたけど……最後に会ったのは数年前だろうか? 確かその時は、エレトーンと変わらぬ背格好だったはず。なのに、今は頭ひとつほどの差があるから驚きだ。
しかも、ほっそりしていた体躯が成長と共に逞しくなっただけでなく、声変わりまでしたのか声が低くなっている。しかも、その声が妙に耳に心地いいから、エレトーンは胸がそわそわしていた。
正直なところ弟のように思っていたアレックスの成長に、少々困惑している。成長を喜んでいる半面、男らしくなり、接し方がわからない。
「惚れ直した?」
「私が惚れていた前提で話すのは、いかがなものかと……」
「では、惚れた?」
「いえ、別に?」
エレトーンが表情を変えずにシレッと返せば、アレックスは肩を落とした。
「……ちょっとくらい」
「え?」
アレックスがなにやら小さく呟いた気がしてエレトーンは聞き返したが、彼は肩を竦めるだけだった。
「これからは、学園に通われるのですか?」
「しばらくは」
しばらくとはどのくらいかエレトーンにはわからないが、飽きるまでは通うのだろう。
「で、どこまでついてくるのですか?」
エレトーンは軽く挨拶をして教室に向かおうとしていたのだが、なぜかアレックスが子ガモのようについてくる。
嫌いではないだけに邪険に扱えないのが悩ましい。
「久々に会ったのだから、少し話でも」
「誤解されるといけませんので……」
いずれは義弟になる人であるが、ふたりきりなのを見られ、周りに変に勘繰られては困る。
エレトーンがそう思って言ったら、アレックスはチラリと柱の陰を見た。
「気付いておりましたの?」
ホホッと口元を隠しながら、マイラインが柱の陰から出てきたので、エレトーンは驚きを隠せない。