バツイチの彼女

不幸な結婚

 私の名前は柴崎翠(しばさきみどり)、28歳。3年前に結婚して専業主婦をしているが、子供はまだいない。

 夫の貴之(たかゆき)さんは2歳年上の会社員。大学の時に所属していたインカレサークルで知り合い、間もなく交際を申し込まれて付き合い始めた。

 貴之さんは私にとって初めての恋人だ。真面目で優しい彼は私を凄く大切にしてくれて、私もそんな彼のことが好きだった。

 ドラマやマンガみたいに熱く燃えるような恋ではなかった。でも他を知らない私にとってはそれが全てだったし、何も問題はなかった。

 そう、何もなかったのだ。

 貴之さんとのお付き合いは熱くも冷たくもなく、ただひたすら常温のまま続いた。

 そして私が社会人になって3年目、彼が昇進したのをきっかけに、私達の結婚が決まった。

 結婚したといっても妊娠はしていなかったので、私は仕事を続けるつもりでいた。それが当たり前だとすら思っていたし、なんなら子供ができたら産休をとって仕事を続けることも考えていた。

「翠さん、いつまで仕事を続けるつもりなの?貴之を支えるのがあなたの仕事でしょ?外で働くことよりも一日でも早く跡取りを産んで立派に育てることを考えなさい」

 姑にこう言われた時『普通のサラリーマン家庭に跡取りなんて必要なの?』という極自然な感想が頭に浮かんだが、それをそのまま口にしたら姑の気分を害すると思った。

 子供を産むのに抵抗はない。正直仕事を辞める必要性は感じなかったが、嫁いだばかりの私が姑に口答えをすることに抵抗があったのだ。

 子供を産む時期についてもだが、私が仕事を辞めるとなれば単純にその分の収入が減るのだから話し合いが必要だと思った私は、姑から言われたことを貴之さんに相談した。

「僕も子供はできるだけ早く欲しいと思ってるんだ。30歳までに少なくともひとりは欲しいよね。それに子供には母親が必要だ。だから翠には子育てに専念して欲しい。仕事を辞める時期は任せるけど、母さんがそう言うなら無駄に波風を立てるのは得策じゃないと思うよ?」

 私の意見は聞いてもらえないのか‥‥少し違和感を持ったが、いつも通りに優しく話す貴之さんに流され、その後私は仕事を辞めて専業主婦になった。

 今思えば、これが私と姑の関係を決定づけた気がする。貴之さんは私の意見を聞くことすらせず、問題を避けるため姑に寄り添ったのだ。

 同じようなことが何度も続き、私は次第に貴之さんに相談しなくなり、姑から何を言われても黙って我慢するようになっていった。
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