バツイチの彼女

新人の菊池君

 異動が決まった私と産休に入る松本さんの穴埋めのため、総務に新しく男性が入ることになり、その引き継ぎが急ピッチで進められた。

 渋谷君の大学の後輩だという新人の菊池君は優秀でイケメンだった。彼へ引き継ぎをするのは新人の私。松本さんがいない今、私の異動前に確実に引き継ぎを終わらせたい上司からの指名なのでしかたがない。

 菊池君の優秀さに助けられ、引き継ぎは順調に進んでいた。同時に役員補佐関連の勉強も少しずつ進める。龍二さんの昇進まで、とにかく覚えることが山積みなのだ。少しの時間も無駄にしたくない。

 菊池君に任せた書類のダブルチェックをしながら、ふと考える。

 あれ?役員補佐、私じゃなくて菊池君で良くない?彼は間違いなく優秀だ。この書類だって最早私のチェックなんて不必要だろう。

 常務の仕事は量が膨大で、ざっくりとはいえそれを把握するのはかなり大変だ。無理ではないが絶対に楽ではない。でも渋谷君並に優秀な菊池君なら‥‥

「ねえ菊池君!今夜飲みに行かない?みんなで菊池君の歓迎会をしたいねって話してたの!」

 総務の先輩社員である佐藤さん達が菊池君をお誘いにやってきた。ちなみに彼女達に私の歓迎会はしてもらっていない。

「それ部の飲み会ですか?部長とか課長とか来ます?それなら参加しますけど」

「部の歓迎会とは別なんだけど、せっかく一緒に働くんだし、会社とか仕事のことも色々教えてあげられるかなーって」

「あ、部の飲み会じゃないなら不参加で。会社や仕事のことは春日さんに教えてもらってるんで大丈夫です」

 菊池君の容赦がなさ過ぎて震える。

「春日さんはまだ入って3ヶ月だよ?私の方が絶対色々知ってるし」

「入社3ヶ月の春日さんより仕事のできない人に教えてもらうことってなんすかね?」

「菊池君!?言葉に気をつけようか!?」

 菊池君のあまりの辛辣さに驚いて思わず口を出してしまった。東大卒の彼が誘われたとはいえこの規模の会社に中途で入ってきた理由が少しわかった気がする。

 いや、今はそれどころではない。異動や引き継ぎの件で元々悪く思われていたのに、口出ししたことで佐藤さんの私に対する悪感情が爆発してしまった。

「春日さんは仕事ができるんじゃなくて色目を使うのがうまいだけなんじゃない?この世のいい男は全て自分のものって思ってそうだしー?あ、そーだ。私も春日さんに色目の使い方教えてもらおうかなー?」

 勢いが止まらない佐藤さん達はここがオフィススペースであることも忘れて私の悪口で盛り上がり始めてしまう。

 最近忙し過ぎて余裕ないのに‥‥これはやばいかもしれない‥‥
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