バツイチの彼女

やれるもんならやってみろ

 ここまではっきりと人の悪意に触れたのは離婚してから初めてだった。自分で思ってたよりもダメージが残っていたことに戸惑い、息苦しさを感じて動揺してしまう。

 聞きたくない‥‥お願い‥‥もうやめて‥‥

 突然私の視界が男性の背中で一杯になった。

「それはどういう意味で言ってるの?」

 現れたのは渋谷君で、突然会話に横入りされて驚いた佐藤さん達が口をつぐんだ。

「春日さんが色目を使って仕事をもらってるって感じに聞こえたんだけど、違う?」

 優しい雰囲気で話す渋谷君に、佐藤さんがここぞとばかりに不満をぶちまけた。

「だ、だって!入社して間もない春日さんが役員補佐なんておかしいじゃないですか!菊池君の引き継ぎだって、普通なら先輩の私達がやるべきですよね!?」

「なるほど。佐藤さんは春日さんより仕事ができると自負してるんだね?春日さんではなく勤続年数の長い自分が選ばれるべきだったと?」

「‥‥少なくとも、春日さんよりは相応しいと思います」

「わかった。春日さん、預けてある業務資料をすぐに全部持ってきてくれる?」

「え?‥‥あ、はい」

 嘘でしょ?佐藤さんに補佐を任せるつもり?

 渋谷君が何をしようとしてるのかはわからないまま、役員室に置いてある業務資料を取りに行った。

 まずは製造業務を把握するよう指示されていたので、一度工場の見学をさせてもらい大まかな説明を受け、その後は資料を片っ端から読み漁っていた。社外秘の書類は抜き取り、段ボール3箱分の資料を台車に乗せて運ぶ。最後に自席に置いていた資料を乗せ、渋谷君にそれを引き渡した。

「今お預かりしている製造関連の資料3年分です。社外秘のファイルは常務の机に置かせてもらいました。これ以前のものは書庫に戻してあります」

「これ、全部目は通した?」

「はい、ひと通りは。今は読み解く作業に入ってたので、引き継ぎの合間に持ち出しできるものだけ自席で読ませてもらってました」

「だそうです。佐藤さん、まずは製造業務の把握をお願いします。書庫に戻した分はあとで取りに行って下さい。社外への持ち出しは厳禁ですので勤務時間内で対応するように。他にも覚えることは山程あるので、時間はいくらあっても足りません。早めにお願いしますね?」

 佐藤さんは返事もせず、食い入るように資料の山を眺めていた。

「春日さん、今日はもう帰宅して下さい。最近超過勤務が続いていたので、明日と明後日はお休みにしましょう。来週からまたよろしくお願いします」
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