バツイチの彼女
 その日、渋谷君から私の体調を心配する電話がきた。彼は私の様子がおかしいことにすぐ気づき、佐藤さん達から守ってくれたのだ。

『異動のせいで無理をさせてる自覚はあったのに、本当にごめん。会社のことは何も心配しないで大丈夫。とにかく今はゆっくり休んで、来週元気な顔を俺に見せにきて?』

 渋谷君の優しさに、強ばった心がとけていくのを感じた。貴之さんとの結婚生活で私が強く欲していたものを、渋谷君がいとも簡単に与えてくれたのだ。

 今後、仕事や佐藤さん達との関係がどうなるのかはわからない。でもきっと大丈夫。私はまだ頑張れる。

 翌週。そうはいってもドキドキしながら出社した私は、朝イチで渋谷君に呼び出された。部屋に入ると佐藤さん達が並んで立っていて、笑顔の渋谷君にソファーをすすめられた私は黙ってそこに座る。

「顔色が良くなってて安心した。ゆっくり休めたみたいだね」

「はい、おかげさまで‥‥」

 佐藤さん達が気になって仕方がないのだが‥‥

「ああ、彼女達が春日さんに話があるって言うから待っててもらってるんだ。気にしないでいいから、コーヒーでも飲む?」

「いや、結構です」

「そんな遠慮しないで?そうそう週末の話でも聞かせてよ、何してたの?」

 これはなんの時間だ?渋谷君の意図がわからず、ただひたすら居心地が悪い。

「あー‥‥沙和ちゃんの家に遊びに行きました」

「そうか、春日さんと田所さんは家が近いんだもんね?俺も田所さんとは結構仲良くしてたんだ。今度一緒にご飯でも食べに行こうよ」

「んー‥‥いやー‥‥どうですかね?」

「あ、田所さんは小さい子がいるからそんなに頻繁には会えないのか。じゃあとりあえずふたりで‥‥」

「あの!常務!?佐藤さん達の話とは!?」

 ちょっと!?今何を言おうとした!?

「ごめんごめん。春日さんがそう言うなら仕方ない‥‥佐藤さんお待たせ、もういいよ」

 渋谷君に促され、佐藤さんが頭を下げた。

「春日さん、先週は酷いことを言ってすみませんでした。それと、役員補佐の仕事は私には無理だと理解しました。春日さんの実力が認められて得た仕事を、わきまえもせず奪うようなことをして反省しています。本当に申し訳ありませんでした」

「ということで、春日さんは役員補佐を続けて下さい。菊池の引き継ぎはもう終了して、今日からこっちメインでお願いします」

 先週私が休んでる間に何があったのか‥‥深く考えるのはやめておこう。異動が確定したなら休んだ分を取り戻したい。時間はいくらあっても足りないのだ。
< 19 / 30 >

この作品をシェア

pagetop