バツイチの彼女

リスタート

 離婚届にサインをした数日後、私は荷物をまとめて吉祥寺の実家に戻っていた。

 両親は驚きながらも突然の離婚に理解を示してくれて『しばらくゆっくり過ごして、今後のことは落ち着いてから考えればいい』と言ってくれた。

 無職で行き場もなかったし、長い間人格を否定され続けていた私はだいぶ弱っていた。そこに離婚を拒否する貴之さんからの電話や訪問が続き、休まる暇なんて少しもない。

 貴之さんはどうにかして私を説得しようとしていたが、次第に私の頑なな態度に怒りをあらわにするようになった。それでも私が戻らないと悟った彼は泣いて許しを請うようになり、見かねた私の父に『翠のことはもう諦めてやって欲しい』と説得されて、ようやく離婚が成立した。実家に戻って3ヶ月が経過していた。

「バツイチかあ‥‥‥‥」

 母に買い物を頼まれ散歩がてら立ち寄った井の頭公園のボート場を眺めながら、私は独り言を呟いた。

 離婚の件で揉めてる間に桜は散り、日中は少し汗ばむくらいの陽気になっていた。自販機で冷たいお茶を購入しベンチに腰掛ける。

 平日の午後、意識して見渡すと小さい子供を連れた母親がちらほらと目にとまった。

 確かめるのが怖くて病院には行ったことがなかったけど、私は本当に妊娠できない体なんだろうか?もし子供がいたら多分離婚はしていなかったと思う。子供がいれば姑の態度も変わっていたかもしれないし、もしかしたら貴之さんだって‥‥

 いや、私はまだ28歳なのだ。過去に囚われてる場合じゃない。まずは結婚してから我慢していたことをしよう。友人と旅行をしたり外食を楽しんだりお洒落だってしたい‥‥まずは仕事を探さないと先立つものがなさ過ぎるな。就職活動か‥‥憂鬱だ。

「あれ?もしかして翠ちゃん?」

 声がした方に顔を向けると、そこにいたのは中高で同級だった沙和(さわ)ちゃんだった。

「沙和ちゃん!?久し振り!」

 沙和ちゃんは私と同時期に授かり婚をしたのだが、出産祝いで新居にお邪魔して以来、年賀状のやり取りしかしていなかった。

「嘘でしょ!?あの赤ちゃんがもうこんなに大きくなっちゃったの!?」

「そうだよーもう2歳になるんだよー」

「はなちゃんだっけ?こんにちはー」

「こんにちわ」

 私の半分くらいの大きさしかない女の子が照れながらもしっかりと挨拶を返してくれた。その様子がかわいくて思わず頬が緩んでしまう。

「翠ちゃんは今どこに住んでるんだっけ?こっちにいるの珍しいよね?里帰り?」
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