Keyless☆Night 一晩だけでいいから、泊めて?
リビングに通されると、私の母親と同じか少し若いくらいの中年女性がいた。
黒髪のショートボブで物腰はやわらかそうだけど、なんていうか……隙がない。

わわっ、雅貴くんのお母様だ!

「初めまして、本郷叶絵と申します。本日はお招き───」
「あ、堅い挨拶(あいさつ)は抜きにしましょ。ええと、雅貴の母です。
叶絵さん、コーヒーと紅茶、どちらがお好き?」
「あの……どちらでも……あ、どちらかというと、コーヒー、ですかね?」
「了解です。少し、お待ちくださいね」

優しそう……な、笑顔ではあるんだけど、正直、ちょっと怖い。
「こんな女がウチの息子と?」的な、圧なのかな……。

「まいさん。叶絵さんにお菓子いただいた」
「あら、ありがとうございます。……わ、光屋(みつや)の最中。あそこの餡、よく炊けてて美味しいですよね」
「あっ、はい。私も好きで……」

カウンターキッチンの向こう、少しくだけた物言いで返ってきた言葉にホッとする。……手土産、とりあえず及第点かな?

ふう、と、息をついたところで、テーブルに視線を戻す寸前。私の脳、一瞬バグった? な映像が目に焼きついた。
───んん?

「……ごめん。見た?」

私の隣に腰かけた雅貴くんが、小さく溜息をつく。
思わず口からもれたような問いかけは、初めてのタメ口。その意味に、もしや……と、彼を見返した。
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