婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
「風邪を引いたみたいなものだよ、エリィ。
 あいつは絶対に戻ってくるから」

「風邪は引き始めが肝心、なのよ!」


 もうちょっとエリィの言葉を真剣に聞いておけば良かったのね。
 今更だけど、本当に貴女が正しかったね?



 小柄で可愛いミシェーラ。
 きっと彼女のような恋人をルーカスは夢見ていたのでしょう。


 それに比べて私は。
 自分と変わらない身長の、黒髪に灰青色の瞳の。
 可愛げのない婚約者。



 幼い頃から子犬のようにじゃれついて遊んだ仲間達。
 そんな私を、女性として見られないのはわかっているから。



 校庭のベンチの上で。
 中庭の芝生の上で。
 ミシェーラを背中から抱きしめて、ルーカスが何事か囁いているのが常でした。


 嬉しそうだね、そんな風に恋人と過ごしたかったんだね。
 デカい私じゃ無理だもんね。



 いいよ、貴方の気が済むまで。
 理想の恋を楽しんで。
 そして、大人になるからあきらめて、決められた人生を歩んでいくことを受け入れろ。


 貴方の様に恋するなんて私には出来ない事だけど、戻ってきたら、以前のままで笑ってあげるから。


 貴方は大事な幼馴染みだから、たまには失った初恋の話を聞いてあげるよ。


 最初は辛いだろうけれど、『あの時は……』なんて、いつかは笑って話せるようになるよ。

 そして、私達は一緒に歳をとっていくんだよ。



 ……ねぇルーカス、貴方も甘かったけど。
 私達も甘かったな。


 どんなにバカな事やってても。

 いつかは私達のところに戻ってくると信じていたなんて、ね?

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