双子の熱 私の微熱
発熱
「サキトくん、起きてこないね」
翌日は土曜日で学校は休みだった。
コウヤくんは学校があってもなくても同じ時間に起きてくるし、私は予定がなければいつもよりゆっくり寝るけど、さすがにここまで寝ない。
時計はもう十一時を回るところだった。
「えー、いいよー。ほっときなよー」
心配になって様子を見に行こうかなって思っているのを見透かしてか、コウヤくんが唇を尖らしてくる。
ダイニングテーブルに座った私の前に、コウヤくんがコーヒーと粉砂糖がまぶされたクッキーを出してくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして。僕のついでだし、僕が一緒にお茶したいだけだから気にしないでね」
私と同じものを持って、コウヤくんが向かいの席に座った。
私とお茶したいだけ……そう言われても、私はどう反応したらいいのかわからない。
今まで男の人に好きとか好意を向けられたことがない。パパに身元は保証してもらってるけど、正直なんかの詐欺の手口ではと疑ってしまう。
純粋な好意なら、本当に失礼な考えだとはわかっているけど……
アーモンドが練り込まれて香ばしいクッキーを食べながら、コーヒーを飲むコウヤくんを盗み見る。
窓から差し込む光に明るい髪色がキラキラしている。さわったことはないけどきっと柔らかい猫っ毛で、コーヒーの水面を見つめる瞳は緑がかったグレー。その髪と目の色も、ギリシャ人だというお祖母様の血のせいなんだろうな。その血のせいか黙っているとクラスメイトよりも大人っぽく見えるのに、第一言語じゃないからか喋り方は少し幼い感じがして、お兄さんのサキトくんと違って笑顔も愛想もあって転校初日からクラスの中心に立っていた。
私の視線に気づいたのか、コウヤくんの瞳が動いて私の目を捕らえる。
目が合って、黙ったまま微笑まれると本当に絵画みたいで背中がゾクゾクした。
「やっぱり、心配だからサキトくん起こしてくる!」
上がる熱をごまかすように私は立ち上がると、サキトくんの元へ向かった。
「サキトくん、起きてる?」
サキトくんの布団をのぞき込んでも、サキトくんの姿は見えなかった。
頭のてっぺんからつま先まで、布団を巻き込むように体に密着させてうつ伏せに寝ている。サナギか何かみたいだった。いつもうつ伏せで頭まで布団被ってるタイプだけど、今日はなんだかいつもより頑なな感じがした。
「どうかしたの?」
布団の膨らみ方からたぶん肩だろうなってところに手をかけると、触れた瞬間に布団が開いて中に引きずり込まれた。
「っ……!」
悲鳴を上げる間もなく、視界が布団の白一色になる。
サキトくんと一緒に頭の上まで布団に包まれている――だけじゃなくて、私はサキトくんにも包まれていた。
背中がサキトくんの胸板に密着して、私の頭にサキトくんの顎が当たっているのがわかる。耳のすぐ近くから聞こえる吐息。背中に感じる早い鼓動。私の体を腕を拘束するみたいに抱きしめられて、足も固定するみたいに絡めとられている。ひんやりとした手がトップスの裾から私の右わき腹に伸びてくる。肋骨の辺りを撫でられ、体が震える。
「さ、サキトくん……!?」
全身の体温が一気に上がるのが分かった。唯一自由に動かせる目を右往左往させてもサキトくんの表情一つ伺うことが出来なくて、代わりに震える声が耳に届いた。
「さ、寒い……」
その言葉にもしかしてと思った瞬間、私の体の震えは止まって、布団と一緒にサキトくんが引きはがされた。
「なにしてんの!」
視界が開けて、サキトくんの腕の中から私は目を三角にしたコウヤくんの腕の中に移っていた。
「待って、コウヤくん」
サキトくんを蹴っ飛ばしそうな勢いのコウヤくんを私は慌てて止める。
「サキトくん、熱があるみたいなの!」
翌日は土曜日で学校は休みだった。
コウヤくんは学校があってもなくても同じ時間に起きてくるし、私は予定がなければいつもよりゆっくり寝るけど、さすがにここまで寝ない。
時計はもう十一時を回るところだった。
「えー、いいよー。ほっときなよー」
心配になって様子を見に行こうかなって思っているのを見透かしてか、コウヤくんが唇を尖らしてくる。
ダイニングテーブルに座った私の前に、コウヤくんがコーヒーと粉砂糖がまぶされたクッキーを出してくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして。僕のついでだし、僕が一緒にお茶したいだけだから気にしないでね」
私と同じものを持って、コウヤくんが向かいの席に座った。
私とお茶したいだけ……そう言われても、私はどう反応したらいいのかわからない。
今まで男の人に好きとか好意を向けられたことがない。パパに身元は保証してもらってるけど、正直なんかの詐欺の手口ではと疑ってしまう。
純粋な好意なら、本当に失礼な考えだとはわかっているけど……
アーモンドが練り込まれて香ばしいクッキーを食べながら、コーヒーを飲むコウヤくんを盗み見る。
窓から差し込む光に明るい髪色がキラキラしている。さわったことはないけどきっと柔らかい猫っ毛で、コーヒーの水面を見つめる瞳は緑がかったグレー。その髪と目の色も、ギリシャ人だというお祖母様の血のせいなんだろうな。その血のせいか黙っているとクラスメイトよりも大人っぽく見えるのに、第一言語じゃないからか喋り方は少し幼い感じがして、お兄さんのサキトくんと違って笑顔も愛想もあって転校初日からクラスの中心に立っていた。
私の視線に気づいたのか、コウヤくんの瞳が動いて私の目を捕らえる。
目が合って、黙ったまま微笑まれると本当に絵画みたいで背中がゾクゾクした。
「やっぱり、心配だからサキトくん起こしてくる!」
上がる熱をごまかすように私は立ち上がると、サキトくんの元へ向かった。
「サキトくん、起きてる?」
サキトくんの布団をのぞき込んでも、サキトくんの姿は見えなかった。
頭のてっぺんからつま先まで、布団を巻き込むように体に密着させてうつ伏せに寝ている。サナギか何かみたいだった。いつもうつ伏せで頭まで布団被ってるタイプだけど、今日はなんだかいつもより頑なな感じがした。
「どうかしたの?」
布団の膨らみ方からたぶん肩だろうなってところに手をかけると、触れた瞬間に布団が開いて中に引きずり込まれた。
「っ……!」
悲鳴を上げる間もなく、視界が布団の白一色になる。
サキトくんと一緒に頭の上まで布団に包まれている――だけじゃなくて、私はサキトくんにも包まれていた。
背中がサキトくんの胸板に密着して、私の頭にサキトくんの顎が当たっているのがわかる。耳のすぐ近くから聞こえる吐息。背中に感じる早い鼓動。私の体を腕を拘束するみたいに抱きしめられて、足も固定するみたいに絡めとられている。ひんやりとした手がトップスの裾から私の右わき腹に伸びてくる。肋骨の辺りを撫でられ、体が震える。
「さ、サキトくん……!?」
全身の体温が一気に上がるのが分かった。唯一自由に動かせる目を右往左往させてもサキトくんの表情一つ伺うことが出来なくて、代わりに震える声が耳に届いた。
「さ、寒い……」
その言葉にもしかしてと思った瞬間、私の体の震えは止まって、布団と一緒にサキトくんが引きはがされた。
「なにしてんの!」
視界が開けて、サキトくんの腕の中から私は目を三角にしたコウヤくんの腕の中に移っていた。
「待って、コウヤくん」
サキトくんを蹴っ飛ばしそうな勢いのコウヤくんを私は慌てて止める。
「サキトくん、熱があるみたいなの!」