双子の熱 私の微熱
サキトの熱
「コウヤくんっ……!」
このまま流されてはダメだと私の首筋に顔をうずめるコウヤくんの肩を押す。ビクともしないコウヤくんの体。私とコウヤくんの体は密着して、胸が押しつぶされて少し苦しい。
「ヤダっ」
首を振って抵抗してもコウヤくんはウンともスンとも言わない。その代わりに、スースーと寝息が聞こえてきた。
もしかしてと思って首を捻ってコウヤくんの顔を確認すると、目を閉じて眠ってしまっていた。
拍子抜けして肩の力が抜ける。私はなんとかコウヤくんの体の下からはい出すと、コウヤくんをソファーに寝かせたままキッチンへ戻って行った。
乱れた髪と服を整えながらキッチンを見ると、コンロの上の小さい片手鍋の中にミルクセーキのような見た目の液体が入っていた。匂いをかぐと、アルコール臭……もったいないけどそれを流しに破棄する。
そのお鍋の隣にはおかゆが出来上がっていた。
それを器によそうと、グラスに水を入れてさっき見つけた薬と一緒にトレーに置く。
なんでもない顔をして、私はサキトくんのところへ向かった。
「サキトくん、起きてる……?」
そっと布団をのぞき込むと、やっぱりサキトくんの姿は見えない。
頭まで深く布団をかぶって、体に巻き付けている。
寒気がするのかな。寒気がするうちはまだまだ熱が上がるって聞くけど……そっとしておいた方がいいのか、起こして薬を飲ませた方がいいのか、悩んでしまう。
「なんだよ」
私が考え込んでいると、布団の中から声がした。
もう一度布団をのぞき込むと、今度は赤身の強い茶色い目と目が合った。
「ごめん、起こしちゃった?」
サキトくんは、コウヤくんに比べると全体的に色素が濃い。癖のない黒髪だし、顔の造形はまったく同じなのに、表情の作り方とかそれ以外はまったく違う。
「喉が痛くて寝れねえ」
いつもよりかすれた声でサキトくんが答える。
「お薬持ってきたから、おかゆ食べて飲もう」
「……コウヤが作ったのか? ホント、マメな奴だな」
呆れたような声を出しながらも、サキトくんは布団の上に起き上った。
それに合わせて私も姿勢を正して、トレーを膝にのせておかゆをレンゲですくう。
「はい、あーん」
「………………」
サキトくんに向かってレンゲを差し出すと、サキトくんの赤っぽい目が私を見返してくる。じっと、見てくる。見られて、私はようやく自分が何をしているのかに気が付いた。
「ご、ごめん! 熱出すといっつもやってもらってたから、つい!」
一気に顔が熱くなり、私も熱を出しそうだった。
私はサキトくんの親じゃないし、サキトくんは小さな子どもでもない。それでも、刷り込まれた習慣が自然と私にそうさせていた。
「ホント、オマエは……呆れた奴だな」
私からレンゲとトレーをひったくると、自分で冷ましながらサキトくんは食べ始めた。
食欲はあるみたいで、よかった。
「見てんなよ、食べにくい」
「ご、ごめん……!」
自分で食べられるなら私がいる必要もないのに、ついつい食べてる様子を見てしまっていた。確かにそうだと思って席を外そうと腰を浮かす。
「オマエ、それ……」
おかゆを食べる手を止めて、サキトくんが私の顔をじっと見てくる。
「なに……?」
動きを止めてサキトくんを見つめ返す。けど、目が合わない。私の顔じゃなくて、もう少しだけ下――首のあたりを見ていた。
「気が、変わった」
マスクの下で、サキトくんが笑ったのがわかった。
トレーを脇に置くと、サキトくんは今朝みたいに私の腕を掴むと抱き寄せて、布団の中に引き込む。
今朝と違って掛布団の白ではなく、仰向けに横たわった私は自分に馬乗りになるサキトくんを見ていた。腰は浮かしてくれてるから重くはないけど、マスクを取って笑うサキトくんに身の危険しか感じなかった。
「食べさしてくれよ。口移しで」
めったに見ることのないサキトくんの素顔。笑うと普通よりも少し鋭い犬歯が見えた。
「なに、言って……」
「良いだろ」
熱に浮かされた熱い吐息が迫ってくる。
「ほら、あーん」
おかゆの乗ったレンゲを手に取り、私の口元に運んでくる。
口を開けたら突っ込まれそうで、私は口をきつく閉じて首を振って意思表示をする。
「あ、悪い」
私の動きで上に乗ったサキトくんの体が揺れて、レンゲから私の頬におかゆが落ちてきた。冷めてて火傷しなかったのは良かったけど――サキトくんの舌がそれをぬぐった。
引きつった悲鳴のようなものが口からもれそうになり、必死に堪えた代わりに鳥肌が立った。
湿った熱い舌が上を生き物みたいにうごめいて、私の頬を舐めて去っていく。
涙目でサキトくんを見上げると、満足そうに微笑んでいた。
「良いだろ。コウヤとヨロシクやってたんだ。俺にもちょっと分けてくれよ」
蓮華を置いて、私を見下ろしてくる。
ヨロシクって何よって思いながらも、コウヤくんにも押し倒されたことが蘇り、顔が赤くなる。ううん、あれは寝ちゃっただけで押し倒されたわけじゃないし……でも、あちこちにキスされたことを思い出してますます赤くなる。
「人が熱出して寝込んでるときに、なにやってくれてんだか……」
サキトくんの熱い手が、私の首筋を撫でる。
「風邪って、人に移したら治るんだろ? 移させてくれよ」
私が動かないように顎を捕らえて、サキトくんの顔が近づく。
頬の次は首筋を舐められ、サキトくんの唇が触れる。
「痛っ!」
鋭い痛みが首筋に走った。
「歯形付き。コウヤのより情熱的だろ」
「な、なに……」
噛みつかれたことに目を白黒させていると、サキトくんが小首を傾げる。こういう仕草はコウヤくんに似ていて、双子だと感じさせる。でも、全然邪悪さが違う。
「何って、キスマークだろ。コウヤにつけさせたんだから、俺もつけていいだろ」
どういう理屈だと思いながら、顔が熱くてもう何がなんだかわからない。
確かに、コウヤくんにも首筋にキスされた覚えはある。でも、キスマークなんて……
サキトくんの言葉を信じるなら、今私の首筋にはコウヤくんが付けたキスマークと、サキトくんが付けた歯形付きのキスマークの二つがあるみたいだった。
「シェアしようぜ」
サキトくんが掛け布団を肩にかけて、私を中に囲い込もうとする。
手首を掴まれて敷布団に縫い付けられる。
覆いかぶさってくるサキトくんに私は硬直して――――
「…………悪い、吐きそう」
耳元でとんでもないことをささやかれた。
「ええーっ!」
食べた後に急に動いたりしたからだろうか。
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、サキトくんは口元を押さえて縮こまっていた。
「ちょっと待って、洗面器持ってくるからー!」
私は布団を飛び出して、お風呂場に向かう。
そこの鏡で赤い二個のマークと歯形を確認した私は、卒倒しそうになった。
このまま流されてはダメだと私の首筋に顔をうずめるコウヤくんの肩を押す。ビクともしないコウヤくんの体。私とコウヤくんの体は密着して、胸が押しつぶされて少し苦しい。
「ヤダっ」
首を振って抵抗してもコウヤくんはウンともスンとも言わない。その代わりに、スースーと寝息が聞こえてきた。
もしかしてと思って首を捻ってコウヤくんの顔を確認すると、目を閉じて眠ってしまっていた。
拍子抜けして肩の力が抜ける。私はなんとかコウヤくんの体の下からはい出すと、コウヤくんをソファーに寝かせたままキッチンへ戻って行った。
乱れた髪と服を整えながらキッチンを見ると、コンロの上の小さい片手鍋の中にミルクセーキのような見た目の液体が入っていた。匂いをかぐと、アルコール臭……もったいないけどそれを流しに破棄する。
そのお鍋の隣にはおかゆが出来上がっていた。
それを器によそうと、グラスに水を入れてさっき見つけた薬と一緒にトレーに置く。
なんでもない顔をして、私はサキトくんのところへ向かった。
「サキトくん、起きてる……?」
そっと布団をのぞき込むと、やっぱりサキトくんの姿は見えない。
頭まで深く布団をかぶって、体に巻き付けている。
寒気がするのかな。寒気がするうちはまだまだ熱が上がるって聞くけど……そっとしておいた方がいいのか、起こして薬を飲ませた方がいいのか、悩んでしまう。
「なんだよ」
私が考え込んでいると、布団の中から声がした。
もう一度布団をのぞき込むと、今度は赤身の強い茶色い目と目が合った。
「ごめん、起こしちゃった?」
サキトくんは、コウヤくんに比べると全体的に色素が濃い。癖のない黒髪だし、顔の造形はまったく同じなのに、表情の作り方とかそれ以外はまったく違う。
「喉が痛くて寝れねえ」
いつもよりかすれた声でサキトくんが答える。
「お薬持ってきたから、おかゆ食べて飲もう」
「……コウヤが作ったのか? ホント、マメな奴だな」
呆れたような声を出しながらも、サキトくんは布団の上に起き上った。
それに合わせて私も姿勢を正して、トレーを膝にのせておかゆをレンゲですくう。
「はい、あーん」
「………………」
サキトくんに向かってレンゲを差し出すと、サキトくんの赤っぽい目が私を見返してくる。じっと、見てくる。見られて、私はようやく自分が何をしているのかに気が付いた。
「ご、ごめん! 熱出すといっつもやってもらってたから、つい!」
一気に顔が熱くなり、私も熱を出しそうだった。
私はサキトくんの親じゃないし、サキトくんは小さな子どもでもない。それでも、刷り込まれた習慣が自然と私にそうさせていた。
「ホント、オマエは……呆れた奴だな」
私からレンゲとトレーをひったくると、自分で冷ましながらサキトくんは食べ始めた。
食欲はあるみたいで、よかった。
「見てんなよ、食べにくい」
「ご、ごめん……!」
自分で食べられるなら私がいる必要もないのに、ついつい食べてる様子を見てしまっていた。確かにそうだと思って席を外そうと腰を浮かす。
「オマエ、それ……」
おかゆを食べる手を止めて、サキトくんが私の顔をじっと見てくる。
「なに……?」
動きを止めてサキトくんを見つめ返す。けど、目が合わない。私の顔じゃなくて、もう少しだけ下――首のあたりを見ていた。
「気が、変わった」
マスクの下で、サキトくんが笑ったのがわかった。
トレーを脇に置くと、サキトくんは今朝みたいに私の腕を掴むと抱き寄せて、布団の中に引き込む。
今朝と違って掛布団の白ではなく、仰向けに横たわった私は自分に馬乗りになるサキトくんを見ていた。腰は浮かしてくれてるから重くはないけど、マスクを取って笑うサキトくんに身の危険しか感じなかった。
「食べさしてくれよ。口移しで」
めったに見ることのないサキトくんの素顔。笑うと普通よりも少し鋭い犬歯が見えた。
「なに、言って……」
「良いだろ」
熱に浮かされた熱い吐息が迫ってくる。
「ほら、あーん」
おかゆの乗ったレンゲを手に取り、私の口元に運んでくる。
口を開けたら突っ込まれそうで、私は口をきつく閉じて首を振って意思表示をする。
「あ、悪い」
私の動きで上に乗ったサキトくんの体が揺れて、レンゲから私の頬におかゆが落ちてきた。冷めてて火傷しなかったのは良かったけど――サキトくんの舌がそれをぬぐった。
引きつった悲鳴のようなものが口からもれそうになり、必死に堪えた代わりに鳥肌が立った。
湿った熱い舌が上を生き物みたいにうごめいて、私の頬を舐めて去っていく。
涙目でサキトくんを見上げると、満足そうに微笑んでいた。
「良いだろ。コウヤとヨロシクやってたんだ。俺にもちょっと分けてくれよ」
蓮華を置いて、私を見下ろしてくる。
ヨロシクって何よって思いながらも、コウヤくんにも押し倒されたことが蘇り、顔が赤くなる。ううん、あれは寝ちゃっただけで押し倒されたわけじゃないし……でも、あちこちにキスされたことを思い出してますます赤くなる。
「人が熱出して寝込んでるときに、なにやってくれてんだか……」
サキトくんの熱い手が、私の首筋を撫でる。
「風邪って、人に移したら治るんだろ? 移させてくれよ」
私が動かないように顎を捕らえて、サキトくんの顔が近づく。
頬の次は首筋を舐められ、サキトくんの唇が触れる。
「痛っ!」
鋭い痛みが首筋に走った。
「歯形付き。コウヤのより情熱的だろ」
「な、なに……」
噛みつかれたことに目を白黒させていると、サキトくんが小首を傾げる。こういう仕草はコウヤくんに似ていて、双子だと感じさせる。でも、全然邪悪さが違う。
「何って、キスマークだろ。コウヤにつけさせたんだから、俺もつけていいだろ」
どういう理屈だと思いながら、顔が熱くてもう何がなんだかわからない。
確かに、コウヤくんにも首筋にキスされた覚えはある。でも、キスマークなんて……
サキトくんの言葉を信じるなら、今私の首筋にはコウヤくんが付けたキスマークと、サキトくんが付けた歯形付きのキスマークの二つがあるみたいだった。
「シェアしようぜ」
サキトくんが掛け布団を肩にかけて、私を中に囲い込もうとする。
手首を掴まれて敷布団に縫い付けられる。
覆いかぶさってくるサキトくんに私は硬直して――――
「…………悪い、吐きそう」
耳元でとんでもないことをささやかれた。
「ええーっ!」
食べた後に急に動いたりしたからだろうか。
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、サキトくんは口元を押さえて縮こまっていた。
「ちょっと待って、洗面器持ってくるからー!」
私は布団を飛び出して、お風呂場に向かう。
そこの鏡で赤い二個のマークと歯形を確認した私は、卒倒しそうになった。