「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
桜子さんは、仕事にも使っているという部屋に案内をしてくれた。
 副社長や加賀さんは、リビングでお茶を飲みながら待っている。
 案内された部屋は広く真っ白。片面の壁は鏡張りで、反対側には大きなドレッサーが数台並んでいる。
 撮影機材の一部だろうか、本格的な照明器具も二台置かれている。それに三脚などが目に入り、見慣れない風景に緊張してくる。
 可愛らしいキャビネットにはずらりと有名なコスメが収められ、まるでここはデパートのコスメブランドのカウンターのようだ。
 そのうちの一台のドレッサーに座らされると、あっという間にコスメやメイク道具にずらりと囲まれていた。
「ここはね、私の子供の頃はバレエのレッスン部屋だったの。いまは仕事部屋として使ってるのよ」
 自宅にバレエのための広いレッスン部屋。庶民とはスケールが違う。
「ご自宅にレッスン部屋があるなら、好きなときに練習ができて良いですね」
「確かにね。でも、ひとつ問題があったのよ。どれだけ悪天候でも、体調不良でも、気分が乗らなくてもバレエのレッスンだけは休めなかったの。うちは母がバレエの先生をしていたから、娘の私は絶対にサボれなくて……!」
 わざと怖い声色で語る桜子さんに、私は可笑しくて声を出して小さく笑ってしまった。
 すると、肩に無意識に入っていた力が抜けていく。
「では、はるちゃんの魅力をうんと引き出していくわね」
 白いケープを私にかけ、桜子さんは鏡越しににっこりと微笑みかけてくれた。
 
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