「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
「いま鏡の中に見えるはるちゃんも、はるちゃんが元々持っている一面なのよ。ダイヤモンドを頭に浮かべてみて、カットされて色んな面を見せてくれるでしょう? わたしはその一面を傾けてわかりやすく光るようにしただけ」
 優しい声に、惨めさや情けなさでくちゃくちゃになっていた心がほどけていく。
「いままで隠すことばっかり考えてしまって、上手くいかなくて。自分の努力不足だって諦めてたけれど……まだ知らない一面を見せて貰えて頑張ろうって思えました」
「隠そうとしていたのも、努力。はるちゃんの頑張り、わたしには伝わってきたよ」
 ぷにっと、毎晩眠くてもスキンケアを欠かさない頬に触れられた。
「……それにね、怜司が私にこういうのを頼るのははじめてなの。女性を実家に連れてくるのもはじめてで、だから張り切っちゃった」
「はじめて……?」
「うん。だから怜司から連絡もらったときは本当にびっくりして、はるちゃんの事情を聞き過ぎてしまって……ごめんね」
 申し訳なさそうに謝る桜子さんに、私は慌ててしまった。
「そんなっ、こんなに良くして頂いて、どれだけお礼を伝えても足りないくらいです!」
「ありがとう、はるちゃん。じゃあ、二人が待ってるから行きましょうか。まだ寄るところがあるみたいだし!」
「えっ?」
 ぽんと肩を軽く触れられ、返事を聞けないまま私はドレッサーの椅子から腰を上げた。
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