「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
上質のものばかりバランス良く身にまとわせてもらい、鏡のなかの私はまた夢のように変身していた。
 桜子さんが施してくれたメイクは、この格好の方がうんと映えて似合う。
 それにただならぬ緊張感に、背筋が伸びっぱなしでしゃんとしている。
 今日は自分ひとりでは体験できない出来事に、驚くばかりだ。まるで物語の主人公になったみたい……これもみんな副社長や桜子さん、加賀さんのおかげだ。
 鏡に向き合う私に、責任者の女性が丁寧に整えてくれた。
「とても綺麗です。歩くと裾の揺れも美しくなるようデザインされているので、どうぞご確認ください」
 フィッティングルームの扉がゆっくりと開けられた。
 履いたパンプスは、尖り過ぎないアーモンドトゥで足にとても馴染む。鏡を意識しながら数歩足を進めてみると、ワンピースはシルエットを崩さずに綺麗なままだ。
 いままで、こんなところまで気にしたことがなかった。
 
 
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