「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
「緊張してる?」
 そう聞かれて、首を横に振る。
「ひとりではないので、前よりは落ち着いています。誰かと……副社長と一緒なのはとても心強いです。あのままもしひとりだったら……なんて考えると怖くなります」
 決定的に、そして一方的に強引に丸く収めようとする彼等に、私ひとりではなにもできなかっただろう。
 復縁を望んでいる訳でもない、浮気による婚約破棄に対する罰も、悔しいけれどおおごとにならないようにと涙と一緒に飲み込んだのだ。
 そういった気弱なところを今回もつけいられている訳だけど、副社長を見て驚く今倉くんの顔だけがいまの楽しみだった。
 性格が悪いと思われそうだけど、お互いさまだと思いたい。
 加賀さんの運転する車は、タワマンのある湾岸エリアへ入った。
 もうすぐ、私の夢をかつて詰めたタワマンが見える頃だ。いまとなっては、もうそれはその夢の墓碑にしか見えないけれど。
「良かった。では、舞踏会へエスコートさせて下さい、お姫様?」
 副社長が、リングをはめた私の手を取る。
「どうぞ、よろしくお願いします」
 副社長は本物の王子様のような柔和な笑顔を浮かべて、「喜んで」と返事をくれた。
 
 
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