「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる

「では、行こか。体調や気分は平気か?」
「はい、大丈夫です。きっと今倉くんたち、副社長を見たら驚くと思うんです。彼ら、副社長のことを知ってましたから」
「そうなのか?」
「ええ。同世代で昴地所の副社長、しかも経済誌にもよく記事と一緒に副社長の写真が載せられています。彼らは商社マンですから、仕事に繋がる話題探しに敏感です。だからそういった糸口を掴める経済誌から、副社長の存在を知ったのでしょう。それに私が昴地所の秘書課で働いているのが、今倉くんの自慢でしたから……」
 結婚の話が出たときも、今倉くんは副社長を式に呼べないかと何度も私に詰めてきた。
 プライベートなことだから無理だよと話をしても、「聞いてみなきゃわからない」なんて学生みたいなことを言っていた。
 あれは友人や会社関係者に誇示したかったのだ、間接的にだけど昴地所の副社長を式に呼べる自分を。
「なら、今日はしこたま驚いて欲しいな」
 副社長は、悪い顔をしてニヤリと笑う。
「絶対に驚きますよ、私ひとりでくると思っていますから。副社長を見たら腰を抜かしちゃうかも」
 少しだけパーティーに顔を出し、色々思い出している自分の気持ちにケリをつけよう。
 おめでとうと言えたら、きっと一区切りがつく。
 そうしたら、改めて副社長にお礼を伝えて……。先の見えない薄暗い道に先を示す光が灯ったように、私の心は浮上していった。
 
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