「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
建物内へ入るためにインターホンを使うと、『はい』と女性の明るい声が出た。
「あの、こんにちは。鹿山です」
『ふふ、鹿山さん! いま開けますね、部屋の場所は……あ、知ってるか!』
 私がその問いに黙っている間に、『待ってますね〜』と一方的にやり取りは終わってしまった。
 ムカッとはしたが、今日の私はこんな些細なことに振り回される訳にはいかない。
 みんなが変身させてくれた姿で、怒った顔をしたくないからだ。
「……入れるみたいなので案内します」
 振り返ると、副社長は端正な顔に青筋を立てそうな勢いで顔をひきつらせている。
「いまのが、彼の浮気相手か?」
「そうです。笹井さんは私の二つ歳下で、とても可愛らしい顔立ちの女性ですよ」
「ほう、発言はまったく配慮がなくて可愛くないけどな」
 ふと、私はその瞬間頭に浮かんだことを言葉にした。
「……私、笹井さんが自分とは正反対のタイプで良かったっていま思ったんです。もし私に似たタイプの女性だったら……自分ではどうしてダメだったのかを、ずっと責めていたと思うんです」
「鹿山……?」
「正反対な笹井さんだから、身を引けたんです。張り合っても敵わないって、わかっちゃったから」
 へへっと笑って、泣きそうな変な顔を副社長に見られないように前を向いた。
 
 
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