「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
「用意ができましたよ〜!」
 笹井さんの一声で、そんな微妙な場の空気がかき消える。
 みんなが大きなテーブルの方へ集まる。そこにはお酒や、ペットボトルのままどんっと置かれたお茶やジュースが鎮座していた。
 お料理は宅配ピザ、それに買ってきたお惣菜などがパックに入ったままずらりと並べられていた。取り分け用の紙皿に、割り箸が並べられている。
「わたし、お料理がまだ得意でなくて。それに洗い物も増えるのが嫌なので、このまま出しちゃいました!」
 笹井さんが明るくそう言うと、私と副社長以外の人たちが笑い出す。
「笹井ってそういうところあるよな〜」
「だって片付けだって大変なんだよ? 浩介さんは全然手伝ってくれないし」
「そういうのは、女の仕事だろ? はるだったらできあいの料理じゃなくて、一から作ってたよ。おれは普通に手作り料理が良かったんだけどな」
 今倉くんの空気を読まない発言に、笹井さんの顔がひきつる。
 
 
「あ! 料理とか、はるに教えてもらったらいいよ。はるの料理はかなり美味いから。それに掃除とか、毎週末はるにきてもらっちゃおうか」
 まるで妙案だともいうような今倉くんの発言に、副社長はため息を吐いた。
「……それは難しいかもしれませんね。鹿山は優秀な人材ですから、そうほいほいと無神経に消費されるのはこちらが困ります」
「いや〜、おれとはるとは長い付き合いなんですよ? だからそのくらい、平気でしょ!」
 私たちがくる前に、今倉くんはすでに飲酒してすでに酔っているのかもしれない。でなければ、非常識に拍車がかかっている状態は説明ができない。
 友人たちは微妙な空気をすぐに察して、話題を変えようと必死だ。だけど今倉くんは私の話題をやめないし、笹井さんはついに黙り込んでしまった。
 
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