「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる

魔法がとけたそのあとも、未来は続く

あのあと。パーティーはすぐお開きになり、副社長の呼んだ方々はこれからみんなでゴルフの打ちっぱなしにいくと言って帰っていった。
 帰り際、それぞれ私に励ましと、それから「婚約おめでとう!」と声を掛けてくれたけれど……。
 本当のことを明かす暇もなく、みなさんはうきうきと帰っていってしまった。
 金井専務は私や副社長に謝り、もっと詳しく今倉くんたちから話を聞きたいからとあのタワマンに残ったようだ。
 どっと疲労感に襲われた体は副社長に手を繋がれて、整備された歩道をかろうじて歩いている状態だ。時間帯のせいか、人通りもあまりない。
 外の新鮮な、潮の匂いのかすかにする空気を大きく吸い込む。
 陽は西に傾き、私たちの影を長くする。夢のようにはじまった一日が、あと少しで終わる。
「加賀に連絡を入れる前に、少し歩こう」
 副社長はそう言って、繋いだ手に力を込めた。
「……あの、副社長」
「ん?」
 今更ながら、副社長から名前で呼ばれ『婚約者』と呼んでもらったことに顔が熱くなる。
 あの場をおさめる副社長の嘘だとわかっていても、私はあの瞬間戸惑いながらも嬉しいと感じていた。
 
 
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