「社会勉強だ」と言って、極上御曹司が私の修羅場についてくる
さっきから存在感を消してスケジュール調整を別テーブルでしていた第一秘書である上司の加賀さんに視線で助けを求めると、『諦めろ』と豪速球な目線で返してきた。
 三十代半ばで温和で紳士的、秘書課の皆が目標にしている人だ。
 しかし追撃とばかりに、首まで横に振っている。出来れば助け船を出して欲しかった……!
「プ……プライベートな事なので……」
 個人の事情は昔ほどオープンにしなくて良くなった現代。プライベートという伝家の宝刀を初手で抜いた私に、副社長はしれっと返した。
「本当に、俺に言えない?」
 じいっ……っと見つめられて、私の背中にじとりと汗が浮く。
 悪いことはしていない。自分のプライベートな話をしたくないだけなのに、妙な罪悪感に襲われる。
「えっと……」
「だめ?」
 ……負けだ。根負けだ。顔面偏差値が高すぎて、罪悪感が勝手にかさ増しされてしまう。
「わかりました。全部お話します。けど、他言無用でお願いします」
 副社長、それに加賀さんも、「わかった」とばかりに頷いた。
 私はどうにでもなれと、一度大きく息を吐いてから話をはじめた。
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