忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「町にある貸家の店子がまた一組、出てゆくことになったと管財人から連絡がありました」
固い口調でグロリアが告げる。
「どうせフェント家から、もっと安い貸家を紹介すると甘言を吹きかけられたんだわ」
ルシンダが眉根を寄せる。
「事情を聞いてもはぐらかされるばかりだそうですが、おおかたそんなところでしょう」
場の空気が重苦しさを増す。
ここ10年余りのあいだに、鉱山事業や繊維工場の経営で成功した実業家のフェント家が、この家に嫌がらせを繰り返しているのだ。
富と権力を得た一方で、新興成金と陰口をささやかれるフェント家には、旧家・貴族というだけでリベイラ家が疎ましいのだろうか。
「フェント家はこの家屋敷を狙ってるんですよ。ヒースクレストを」
ルシンダが憤然と言う。
「由緒と格式のある邸を手に入れてそこの主に納まれば、自分たちにも箔が付くと。成金の考えそうなことだわ」
「そんなことのために、うちの店子を唆したり、あるいは嫌がらせをして出ていくように仕向けるなんて。
そんな汚い手段で奪った邸に住んで、なにが楽しいのかしら」
淑女にあるまじきことなのは承知だが、フェント家の行為には、やはり怒りや憎しみという感情が渦まく。
固い口調でグロリアが告げる。
「どうせフェント家から、もっと安い貸家を紹介すると甘言を吹きかけられたんだわ」
ルシンダが眉根を寄せる。
「事情を聞いてもはぐらかされるばかりだそうですが、おおかたそんなところでしょう」
場の空気が重苦しさを増す。
ここ10年余りのあいだに、鉱山事業や繊維工場の経営で成功した実業家のフェント家が、この家に嫌がらせを繰り返しているのだ。
富と権力を得た一方で、新興成金と陰口をささやかれるフェント家には、旧家・貴族というだけでリベイラ家が疎ましいのだろうか。
「フェント家はこの家屋敷を狙ってるんですよ。ヒースクレストを」
ルシンダが憤然と言う。
「由緒と格式のある邸を手に入れてそこの主に納まれば、自分たちにも箔が付くと。成金の考えそうなことだわ」
「そんなことのために、うちの店子を唆したり、あるいは嫌がらせをして出ていくように仕向けるなんて。
そんな汚い手段で奪った邸に住んで、なにが楽しいのかしら」
淑女にあるまじきことなのは承知だが、フェント家の行為には、やはり怒りや憎しみという感情が渦まく。