忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
おぉ、とグロリアが両手で口元をおおって、苦悶のうめき声を漏らす。
「わたしたちは呪われてる。これはギュスターヴ侯爵家の呪いだわ!」

「お祖母さま、しっかりして。呪いなんてあるはずないわ」
半分は自分にも言い聞かせている。

「わたしは息子夫婦にまで先立たれた。そして、何十年と暮らしてきたヒースクレストを失おうとしている。この禍が呪いでなくて、なんだというの」

心が弱くなると、迷信が忍びこんでくるものだ。気丈なグロリアでさえ例外ではなかった。

グロリアのいう呪いとは、リベイラ伯爵家とギュスターヴ侯爵家の四代前まで遡る因縁のことだ。

この辺り一帯、見渡す限りの土地がリベイラ家の自領だった頃。
当時の当主には、双子の男児がいた。弟イアンと兄のキラン。

弟のイアンは生まれつき片足が不自由だった。
伯爵は悩んだ末、弟イアンを後継に定め、兄キランは持参金とともに縁戚のギュスターヴ侯爵家へ養子として送り出した。
子どもに恵まれず、経済的にも破綻寸前だったギュスターヴ家からは大いに喜んで迎えられた。

しかし、兄でありながら生家から追われたと、キランは両親とヒースクレストに屈折した感情を抱くことになる。
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