忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
色とりどりの花が咲きほこる庭園を持つ大きな邸で、両親と祖母の愛に包まれて育ったテスの幼少期は、幸せそのものだった。

その暮らしは、ブツリ、と裁ち(ばさみ)で糸を切るかのように、突然終わりを告げた。
父と母が、馬車の事故で帰らぬ人となってしまった時に、テスが無邪気でいられた子ども時代も終わったのだ。

グロリアは悲嘆にくれ、十二歳のテスは自分の身に起きた出来事を受け止めきれず、感情を麻痺させるしかなかった。

父が取り仕切っていた事業は主を失って売却せざるをえず、その後はグロリアとテスで身を寄せ合うように暮らしてきたのだ。

それから七年———
先のことなど考える余裕もなく、日々を送るのに精一杯のなか年月は流れていった。

これだけの災難に見舞われれば、グロリアが「呪われている」と口にしたくなるのも無理からぬこと。
四代前にヒースクレストを追われたキランの、父祖の地への祟りだと、それはずっと囁かれていることだった。
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