忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「肝心のギュスターヴ家は、マリベルとの縁談をどう考えているのかしら。フェント家なんかと組まないでほしいわ」
身内だけの席なので、テスも遠慮なく本音をこぼす。

「最近、隣のダロウビー地区に別荘を購入したという情報が入ってきたわ。総領息子のリランの乗馬趣味のためだとか」

乗馬が趣味…自分と同じだ。馬のことを考えると、いっときだけでも気持ちが軽くなる。

ですからねテス、とルシンダがくるりと瞳を動かして、意味ありげな視線をこちらによこす。
「今日ここにくる道すがら、馬に乗った青年を見かけたじゃない」

「ええ、素晴らしい馬だったわ」
思い出しつつ答える。

「馬だけじゃなくて乗り手のほうも見てほしかったわね。
あんな珍しい見事な馬は、異国から取り寄せないと手に入らないでしょうし、そんな馬を持てるのはよほど馬好きの富豪ということよ。
たとえば侯爵家の令息とか」

そうなのか、ルシンダの話にテスはきょとんと目を瞬くしかなかった。
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