忘れな草の令嬢と、次期侯爵の甘い罠
「アッシュブラウンの髪に琥珀色の瞳をした美青年。噂で聞いているリラン・ギュスターヴの風貌(ふうぼう)とも一致してるわ」

テスはルシンダの観察眼に舌を巻いた。さすがは新聞記者だ。
遠目にすれ違っただけでそこまで見てとるとは。

「リラン・ギュスターヴがヒースクレストを見にきていた。その意図がわたしは気になっているの」

「ヒースクレストを見にきていたのかしら?」

「この辺りに他に見るべきものなんてないじゃない」
ルシンダは確信をこめて言う。

「ギュスターヴ家のリランなら、子どもの頃この邸に滞在していたこともあるのよ。
テスや、覚えていないの?」
グロリアが口をはさむ。

「リラン…あのひょろっとした男の子? うちに一ヶ月くらいいたかしら、家庭教師と一緒に」
テスが九歳頃のことだ。

「そうそう、喘息もちでね。空気の澄んだところでのびのび過ごすのが体にいいだろうと、預けられていたのよ」

「へえ、そんなこともあったのね」
ルシンダがつぶやく。
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